第4章 ~いつか叶う、恋~(西谷 夕)
それから3人で、
駅前のトドールに行った。
カオリもあんまり数学は得意じゃないから
私が二人に一生懸命、教えた。
テスト勉強で、よかった。
雑談する暇がないから
余計なことを考えないで済む。
『あれ、もう、5時すぎ!!』
『マジ?!俺、
こんなに勉強したの久しぶりだ!』
『えーっ?ニシノヤ、それ、
"久しぶり"じゃなくて"初めて"でしょ(笑)
あー、日暮れが早くなってき…』
ガラスの外を見ながらそう言いかけた
カオリの言葉が、
プツン、
と、
途切れた。
固まったまま、動かない。
私と西谷君も、当然、
カオリの目線の先を見る。
…見なくても、わかるけど。この空気。
"まさき君"が
あの彼女と手を繋いで駅に歩いてく。
『な、ぇと、カオリ、もう1杯、
ジュース、飲まね?俺、おごるしっ。』
反応がない、カオリ。
あたふたする、西谷君。
そんな西谷君に首を振る、私。
もう、無理だ。
隠しきれない。
そもそも、
駅前の店に来たのが間違いだったって、
今、この瞬間になって気づく。
さっき、あの時は
図書館さえ離れられれば
どこでもいいって思ってた。
だけど、冷静に考えてみれば、
駅に向かって歩いてくることは
充分、あり得ることで。
まだまだ、子供な中学生。
友達一人、守りきれない、
未熟で不完全な、私たち。
黙ったままの私たちのことを
"何も知らない"と勘違いしたカオリが
精一杯、フツーの声を出す。
『あ、ごめんごめん、ちょっと
知り合いに似た人がいるなー、って
思ったけど、人違いだ。
いるよね、びっくりする程、似てる人。
マジ似てた~。兄弟かっ?!ってぐら…』
『…カオリ、ムリすんな。』
『…えっ?』
『今の、彼氏だろ?』
『…知ってるの?
え?ね、二人とも知ってたの?』
『…ぉぅ…』『…ん…』
『なんで?いつから?!どーして?!』
カオリの大きな声に、
周りのお客さんが一斉にこっちを向く。
西谷君は、下を向いて、何も言わない。
私が、悪い。
西谷君を、巻き込んだ。
『カオリ、ごめん。西谷君は悪くない。
ちゃんと説明するから…
とりあえず、ここ、出ない?』
黙って頷いたカオリを先頭に、
3人、無言で、店を出た。