第4章 ~いつか叶う、恋~(西谷 夕)
ご飯を食べてから、
帰り道が別れるところまで
二人で一緒に歩いた。
たいした距離じゃないし、
たいした話題でもなくて、
もっとドキドキするかと思ったのに
案外、ドキドキしなかった。
ただ、すごく、楽しかった。
たいした話題じゃないのに
すごく、楽しかった。
カオリが言ってたみたいな
キュン、とか
ズキン、みたいな♪恋の効果音♪は
私の中には鳴り響かなったけど。
『俺、こっち。じゃぁな。』
『うん、ありがと。』
『ありがとーって、なんのことだ?』
『え?カオリのこと、相談にのってくれて。』
『あれ、相談だったのか?』
あっけらかんと首をかしげてる。
…何だと思ってたんだろ?雑談の1つ?
ま、それならそれでいいや(笑)
『ううん、じゃぁね。
来週、テスト、頑張ろうね。』
そう言って手を振ったら、
西谷君は、飛び上がった。
『あぁっ、そうだった!
俺、森島に頼もうと思ってたんだ!
レンリツホーテーシキ、教えてくれ!
このままだと俺、
数学、赤点、確実なんだ!
今度、赤点とったら、部停になるっ!
年明けの強化合宿に行けなくなんのは
ゼッテー、困るっ!
頼む、俺を助けてくれ!』
大げさなくらい困った顔。
さっきまでの
自信満々でキラキラの顔とは別人。
ホントに相当、困ってるみたい。
わかりやすい(笑)
『いいよー。昼休み?』
『…多分、昼休みくらいでは
解りきれない気がする…』
『(笑)じゃ、明日は?
図書館とかでガッツリ、やる?』
『ありがてぇっ!
明日の午前中がテスト前最後の部活だから
部活終わったら、頼む!』
『うん、そしたら、お昼過ぎね。』
『おぅっ!あぁ、助かるぜー!
よろしくな、先生っ!』
…もう、いつもの笑顔に戻ってる。
キラン❇️と光る表情で手を振って
まっすぐ走っていく後ろ姿は、
あっという間に角を曲がって、
そして見えなくなった。
『…先生、だって。』
なんか、嬉しくて。
きっと、カオリだって
西谷君に"先生"って呼ばれたことは
ないハズだもんね。
私は家に帰って、
西谷君に渡すためのノートを作った。
連立方程式の解き方のコツと
問題をいくつかのせたノート。
西谷君の苦手そうなところを、
西谷君にわかるような言葉で。
…明日が、楽しみ。
勉強するだけなんだけどね。