第4章 ~いつか叶う、恋~(西谷 夕)
『ねぇ、おかーさん、
やっぱり、制服、ぶかぶかすぎじゃない?
変じゃない?目立ってない?』
『すぐ、ぴったりになるって。
…見てごらん、
1年生はみんなぶかぶかじゃないの。
そのくらいのほうが、
初々しくてちょうどいいわよ。
…こら、なぁに緊張してんの!
こういう時は最初が肝心だから!
おっきい声で挨拶して、
近くの子に自分から声かけなさいよ。
そしたらすぐ、友達なんか出来るから。
…あらぁ、山田さん、おはよぅ!
そのスーツ、買った?いいわぁ、似合う!
…じゃあね、お母さんたち、
体育館にいるから。頑張れ~。』
社交的なお母さんは、
すぐに知り合いを見つけて
その人と体育館に入っていった。
…もぉっ。他人事みたいに
"頑張れ~"じゃないよぉ。
12歳の春、
私は地元の中学校に入学した。
千鳥山中学校。
3つの小学校が集まってくる
ちょっと大きな学校で、
クラスは一学年、10クラスもある。
人見知りな私には、
ぞろぞろと
同じ服を着て集まってくる人の波が
怖いくらいだ。
入学式に参加する保護者は
直接体育館へ行き、
私達は、
貼り出されたクラス割を見て
自分のクラスへ行く。
…私は、私は、えぇと、あった。
1年8組だ。
あぁ~、小学校で仲良かった子、
みんな別のクラスだぁ(涙)
ヤンチャな子、いないといいけど…
せっかくの春の1日も
緊張のドキドキばかりで
ちっともワクワク出来ない。
…友達、出来るかな…
たどり着いた1年8組には
もう、半分くらい、人がいた。
みんな、それぞれ
同じ小学校から来た子同士で
集まって喋ったりしてるけど、
私はそんな相手を見つけられなくて
教卓のど真ん前という
何とも居心地の悪い自分の机に座って、
興味もないのに教科書を開いたり、
筆箱の中身を出したりしていた。
…段々、人が増えてきて、
みんな、自分の席につきはじめる。
それなのに、
私の隣と後ろはあいたまま。
…もうすぐ、先生、来ちゃう。
もしかして、初日から二人も遅刻?
私には関係ないのに、
私がドキドキしはじめた時、
『ほら、間に合ったじゃねぇか!』
『ニシノヤのばぁか!』
騒々しく、駆け込んできた二人。
『げっ!』
『席、前すぎ!』
そう言いながら、
男の子が私の隣、
女の子が私の後ろに座った。