第4章 ~いつか叶う、恋~(西谷 夕)
先輩の言うとおり、
金曜の夕方、道は混んでいた。
途中、繁華街近くの大通りで
渋滞にひっかかる。
灯りがともり始めた街には、
これから飲みに行くらしい
楽しそうな大学生や、
若い社会人のグループ。
…私は、あんな時間を経験しないまま
今の暮らしに突入してしまったな。
高校卒業して、
就職してまもなく妊娠。
出産してまもなく離婚。
全部、
自分で決めて選んだことだから
何一つ、後悔はしていないけど。
とにかく、
息子を一人前にするまでは、
私は、全力で頑張る!
人生の楽しみは、
その後にきっとある、って信じてる。
動かない信号の待ち時間、
鞄の中から取り出した、小さなポーチ。
息子の写真。
息子が書いてくれた絵。
息子が作ってくれた折り紙。
そして、
"さんきゅー"と殴り書きされた、
もうボロボロのノートの切れ端と
これもすっかり古くなった
ガリガリ君の当たり棒。
…くれたのは、
私の大事な初恋の人で、
今までで一番、好きだった人。
友達のまま、
気持ちも伝えられないままの、
一方的な片思いだったけど、
私の心の真ん中にいる息子の名前
…優人、と書いて"ゆうと"…の
由来になった人。
そう、
叶わなかったけど、
今までで一番大事な恋、のその人。
息子との二人暮らしのなか、
時々、こうして思い出しては
今でも私を元気にしてくれる、
特別な、人。
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