第4章 ~いつか叶う、恋~(西谷 夕)
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あと、10分だ。
何度も壁の時計を見ると、
いかにも早く帰りたい感じだから、
パソコンの画面の右下の
小さな数字を何度も見る。
『あぁ、やっと一週間が終わる!
森島さんち、今日の晩御飯、何?』
隣のデスクから、
先輩が声をかけてきた。
『まだ何にも考えてないです。
今日から息子のスポーツクラブが
金曜になったから、まず、迎えに行って
それから買い物して…』
『あー、シフト変わったから
息子ちゃんの習い事も
曜日変えたって言ってたね!
金曜の夕方って、道、混むから、
月曜より時間かかるよ。
もう、片付けていいって。』
シングルマザー仲間でもある先輩は
まだまだ子育ても仕事も精一杯の私を
何かと気にかけてくれる。
『気になるの、わかる~。
うちも保育園の頃とか、
迎えが一番最後になった時、
ポツーンと1人、
教室とか園庭にいるの見て
すごく申し訳ない気持ちになってた。
あれ、いつまでも慣れなかったなぁ。
そんな時期も、あっという間だけど!』
机の上を片付けながら、
息子が1人で待ってる姿を想像すると、
私まで泣きたくなる。
『ほら、6時半!帰ってよし!』
『ありがとうございます!』
『今度、バツイチ合コンするから。
そこでいい男、探そうね!
あたしたち、まだまだ女として
花、咲かせられるって❤️』
『アハハ、あたしまだ、
そんな余裕、とてもないです!
…お先に失礼します!』
先輩は、シングル歴10年くらい。
強くて明るくて、頼れる存在。
いつかあのくらい逞しくなりたいけど、
今はまだ、子育てに精一杯で
自分の未来なんて、考える余裕、ナシ。
とにかく、私が頑張らないと。
母親としても、父親のかわりも。
仕事も、子育ても、家事も。
可愛さよりも、逞しさ。
トキメク暇なんて、
女である暇なんて、
もう、
二度とないかもしれないけど。
…やだ、あたし。
先輩があんなこと言うから、
トキメキなんて言葉、
久しぶりに考えてしまった。
…車を走らせる。
後部座席に、青いジュニアシート。
そこにいつも乗る、
私の大事な息子を迎えに。
今日はどんな話を聞かせてくれるかな。
晩御飯、手早く作れるもの、何にしよ。
冷蔵庫のなかを思い出しながら、
夕方の町を、軽自動車で走る。