第3章 ~痛い、恋 ~ (烏養 繋心)
『…はぁっ、くそっ、弱み見せちまった!
頼む、忘れてくれーっ。』
袖で涙を拭きながら顔をあげると、
パシャ。
『撮れた。』
嬉しそうにスマホを握る綾姉。
『いつか、ベビーに見せてあげよ。
あなたのことを初めて報告した日、
父ちゃんは大泣きしたんだよ、って。
そもそも父ちゃんは、ずーっと小さい頃から
泣き虫だったんだよ、って。』
『テキトーなこと言うな!
…ってか、父ちゃん、って…俺?!』
『他に誰がいんの?
あれ?お父さんお母さん、とか、
パパママの方がいい?
でも私達、そういうキャラじゃないよね?
父ちゃん母ちゃん、でよくない?』
…まだ形も出来上がらない命が、
ほんわり、と、
俺達の間を繋いでいるのがわかった。
『大事にしろよ。』
『うん。でもしばらくは誰にも内緒ね。』
『いいけど、俺には、何でもちゃんと報告な。』
『なに?なんか急に威張ってない?』
『…泣いちまったから。
チビスケが、"情けない親だ"って
不安がってるかもだろ?
ここはひとつ、父の威厳を…』
『気、早っ(笑)見えてないし!』
『聞こえてたかもしんねぇからっ!
…おーい、チビスケ、
父ちゃんは、泣き虫なんかじゃねぇぞ!』
『多分、そのチビスケが
生まれて最初に目にするのは、
ベビーと対面して感動で号泣する
父ちゃんの泣き顔だと思うけどね。』
『ぜってー、泣かねぇ!一生、泣かねぇ!』
『はいはい(笑)』
軽く、いなされる。
既に、かかあ天下(笑)
それでいい。
家族みんなが自由に生きてくのを
後ろで黙って見守ってる
うちの親父くらいで、
俺はちょうどいい。
『帰るか。』
『うん。』
気づけば、周りにいるのは
会場の撤収をする大会スタッフだけ。
『ほら。』
転ばないように手を差し出すと
綾姉が、その手を繋いで
ポツンと言った。
『一年後、どうなってるかな。』
『さぁ、どうなってるだろな。』
暗い堤防を手を繋いで歩き出す。
『無事に生まれてるかもしれないけど、
そうじゃないかもしれないんだよね…
今から、この歳で、大丈夫かな?』
…不安そうな声。
そりゃそうだろう。
1度は諦めたこと。
経験したことないこと。
どうなるかわからないこと。
それがいっぺんにやってきたら、
そりゃ、誰だって不安になるさ。