第3章 ～痛い、恋 ～ (烏養 繋心)

『…繋心？』

綾姉が俺の顔を覗きこむ。

『どした？大丈夫？』

…何年ぶり、だろうか。
俺、泣いてた。
自分でも驚くくらい、不意に。

綾と別れたときだって
１度も泣かなかった。
正直いうとあの直後は、
情けなさや喪失感で
何度か泣きたかった。

でも、
綾を泣かせてやれなかった俺が
泣いちゃいけないだろう…と
何故か一人で意地になって、
結局、我慢したんだ。

なのに。
今は、止められないほど涙が溢れてくる。

心の鍵が壊れたみたいに
自分ではどうしようもない涙。



…綾姉が、
俺をそっと抱き締めた。

『泣くの、久しぶりじゃない？
たまには、泣いた方がいいよ。
大丈夫、私しか見てないから。
この際、スッキリするまで泣いちゃえ！』


それこそ、
小さい頃から変わらない
綾姉のよく知った優しさに
応える言葉が見つからなくて、

やっぱり涙も止まらなくて、

だけど不思議と
泣き止まなきゃとは思わなくて、

俺はそのまましばらく、泣き続けた。
…安心して、泣き続けた。



不思議なもので、
やがて勝手に涙は止まる。

『…あぁ、俺、情けねぇな！』

『そんなこと、ないよ。』

耳元で聞こえる声。

『いろんなこと、あったもんね。
ずっと、一人で抱えてきたんでしょ？
繋心、不器用だけど優しいもん。
いっぱい、自分を責めたりしたんだろうね。

…でももう、きっと、大丈夫。』

トントン…と背中をたたく、優しいリズム。
小さい頃から何度も、
綾姉のこの"大丈夫"に救われてきた。


…今度こそ、俺、
支える側に、なりてぇ。


かっこよくなくていい。
不器用も情けなさも、
簡単には変わらない…
というか変われないと思うけど。

それでも、

俺を
"大丈夫"と守ってくれる人の毎日を、
俺に
"変わらないで"と言ってくれる人の毎日を、



一番そばで、
気付かれないくらいそっと、

ケンカも後悔も
いつか笑い話にしてもらえるくらい
ずっと変わることなく、

幸せにするためなら
嫌われてもいい、と言えるくらい、
奥深くから、

支えたい。



…失ったものもあるけど、
その分、
手に入れたものもたくさんある。

これからはそっちを
精一杯、大事にするからさ。