第3章 ~痛い、恋 ~ (烏養 繋心)
『繋心は、』
『よし、働く。』
子供が出来る、っていうのは
そういうことなんだって、
"変わりたくない"なんていうのは
やっぱ、どっか甘えなんだ、って
わかってる。
『俺も、何か仕事探して…』
『違うの、繋心。繋心は、』
…聴こえてきた言葉は、
綾が、別れ際、
俺に言った言葉と同じだった。
『変わらないで。』
"変わらないで"?
変わらないで、って?
『…ぁ?』
『私、仕事、続けたい。
こっち戻ってやっと探した
正社員の仕事だもん。』
予想外のことばかりで、
今夜の俺は、ホントに言葉が出てこない。
『…暮らせるか?』
『最低限の産休と育休はとるよ。
だけどその間は、
東京の会社の退職金もあるし、
今住んでる所なら家賃もかからないし。
せっかく両方の実家の間に
暮らしてるんだから、
親とか商店街のみんなの力借りて
とりあえずやってみようよ。』
『俺は?』
『だから繋心は、変わらないで。
私が仕事復帰したら、
繋心は店番しながら、
うちの母とか繋心のおばちゃんとかと
子育てと家事、してくれないかな?
それはそれできっと
繋心も大変だとは思うけど…
私達なりのやり方、探しながら。』
『バレーは…』
『もちろん、続けて!
男の子でも女の子でも、
きっとバレー好きな子になるよ。
我が子の練習相手をすることこそ
繋心の一番大事な仕事!』
『…いいのか?』
『あたし、繋心がサラリーマンになる方が心配。
仕事サボってバレーしてないか、とか
売上金、パチスロで使うんじゃないか、とか。』
『なにぃ?!』
『ウソウソ(笑)』
綾姉は、ハハハ、と笑った。
『私、
小さい頃から見てきたまんまの
あの頃と変わらない繋心だから
結婚したんだよ。
お願いだから、急に
猛烈サラリーマンになんてならないで。
繋心ちのおじちゃんみたいにさ、
奥さんの尻に敷かれる姿が似合う
そんな旦那さんでいてほしい。』
『なんだ、そりゃ(笑)』
笑いながら思い出したのは、
山口達の結婚式の日、
親父さんが俺に言った言葉。
"その生き方を貫けば、きっと
君らしくいられる人に出会えるよ。"
出会えたんだな、俺。
綾には山口が寄り添ったように、
俺にも、ちゃんと、いた。
変わらない俺に寄り添ってくれる人。