第3章 ~痛い、恋 ~ (烏養 繋心)
『(笑)そんなことで
いちいちビクビクしないんだけどさ、
あたし、……。』
綾姉が、
周りを気にするように、
急に小さな声で何か、言った。
周りには、誰もいないのに。
『あ?聴こえねぇって。』
『あたしね、』
ふうっ、と、一呼吸。
そして。
『妊娠、してるんだって。』
…
…
…
…
…
…
…
『えええっ?!?!』
ええと、
何から言えばいいんだ?
ええと、ええと、
『綾姉、し、焼酎なんか
飲んじゃダメだろ?!』
コップをユラユラ揺らして見せながら
『大丈夫。私の、ただの水だから。
…ホントなのか?って聞かないんだね。』
『だって、そんなウソ、つかねぇだろ?!』
『…よかった。
ウソだろ、って言われたら
ちょっと淋しいな、って思ってた。
ここんとこ体調悪くてね、
風邪かなぁ、って思って、
今日のお昼、病院行ったら。
…まだやっと3ヶ月だって。』
『へぇ…』
前の旦那とは
不妊が理由で別れた綾姉。
確かに俺は、
庭先でプロポーズした日から、
新婚夫婦らしく、
…いわゆる、ゴムなし、中…で
セックスしてきた。
もちろん、"その"可能性も
ちゃんとわかったうえで。
だけど、正直、
そうなる…つまり、妊娠する…
っていうことは考えてなくて。
『そうなんだ。』
…ちょっと、びっくりして、
言葉がうまく出てこない。
『びっくり、でしょ?
私も自分で信じられなくて
何度もお医者さんに確認したもん。
でも、間違いない、って。』
『そうなんだ。』
ほんとに、驚きすぎて
他の言葉が出てこない。
『…なんかね、環境かわったり、
ストレスなくなったりすると、
そんなこともあるんだって。
…繋心とのHって、ほら、その…
快感だけ追い求めていられた、
っていうか( 〃▽〃)』
『なに、テレてんだよ(笑)』
『…年齢とか初産だとか考えると、
無事に出産にたどり着けるか、とか
いろいろ心配なことはあるんだけど、』
俺の顔を覗きこんで。
俺の気持ちを確かめるみたいに。
『あたし、産みたい。』
『当たり前だろ!』
当たり前、だけど。
『…俺は、』
俺は、どうしたらいいんだ?
とりあえず、頑張らねぇと、
ってことはわかるけど。
…だけど、
頑張る、って、
何をどうすりゃ、いいんだ?