第3章 ~痛い、恋 ~ (烏養 繋心)
『…あの、1つ、質問していいですか?』
『ん?』
『結婚される前、趣味、なんでしたか?』
『今は、ゴルフだけどねぇ。その前は…』
親父さんは、
周囲に聞かれたら困る、とでもいうような
イタズラっぽい顔で
俺の耳に顔を寄せて、言った。
『学生時代は、パチンコと麻雀に
随分、高い勉強代を払ったなぁ。
どっちも辞めなければ結婚しない、と
女房に言われて、泣く泣く辞めたけどね。
だから私に言わせれば、
君みたいに自分の生き方を貫けるのは
ある意味、憧れるよ。
…娘の婿にはしたくないけれど(笑)』
…綾。
お前の親父さん、
家族思いの最高の親父さんだよ。
俺も、ちゃんと、言おう。
男としての、俺なりのケジメ。
『俺の方こそ、
あの時、きちんと向き合って頂いて
ありがとうございました。
山口は、俺なんかよりはるかに
綾さんにふさわしい、
本当にいい男だって保証します。』
『ありがとう。』
うんうん、と頷いて、
綾の親父さんから
俺に手を差し伸べてくれた。
ガッチリと、握手。
気がつくと
俺の前の列はすっかりはけて、
綾のおふくろさん、
そして、
その向こう側の山口も綾も、
親父さんと俺を見ながら
それぞれの想いを込めて
微笑んでくれている。
今日、来て、よかった。
綾の晴れ姿を見られたのも、
山口の男の決意を見届けられたのも、
こうして親父さんと話せたのも、
すべて、
俺が自分で決めたことの結果だ。
心の底から、
もう、一転の曇りもなく
俺の綾への思いが
昇華した気がした。
…俺自身の生きて行き方は
まだまだ、情けないことばかりで
むしろ、ずいぶん年下の彼らに
置いていかれてる感は否めないけれど、
それはそれで、
俺が自分で
これからおいおい反省するとして(笑)
今はとにかく、この言葉を。
『山口、綾…じゃなくて森島?
あれ?
もう結婚したから森島でもねえか…
…アヤ、本当に、おめでとう!
どっから見てもお似合いの二人だよ。
絶対、幸せになれ!』
山口も、綾も、
俺にとっては
一生、つきあっていきたい、
大事な仲間だ。
これまでも、これからも。