第3章 ~痛い、恋 ~ (烏養 繋心)
山口と綾の結婚式には
喜んで、出席した。
町内会チームや
烏野時代のバレー仲間に囲まれて
感極まった山口は、
披露宴の結び、新郎の挨拶で
言葉を詰まらせていたけど、
無理もないと思う。
人生の大勝負に出て手にした宝物。
その結婚を、
これだけの仲間が、
そして家族が
心からの拍手で祝福してくれる。
…俺には出来なかったことだ。
いろんな思いが
山口の胸を行き来しただろう。
俺も心からのエールを送ったし、
誰よりも祝福したつもりだ。
…披露宴の御被楽喜の後。
新郎新婦とその両親は、
並んでゲストを見送る。
俺も、その長い列に並んでいた。
少し気まずい思いで。
そう。
綾の両親に会うことになるから。
気付かないでいてくれたらいい、
いっそシカトしてくれてもいい、
と思ったけど、
ちゃんとした社会人?!は、
こんな時、
そんな卑怯な真似はしないんだよな。
『…久しぶりだね。来てくれたのか。』
綾の親父さんから、声をかけてきた。
『お久しぶりです。
このたびは、おめでとうございます。』
ありきたりな言葉しか、出ない。
くそー、列、動け!
そんな俺の気持ちを知ってか知らずか
親父さんは、穏やかな顔で。
『忠君は、君の教え子らしいな。
君のこと、とても立派で大事な人だと
私に教えてくれたよ。』
…山口…
『あの時は、
厳しいことを言って悪かったね。
でも、私は今でも、
間違ったことは言ってないと思ってる。
それは、綾にとってはもちろん、
君にとっても。』
親父さんは、
とても晴れ晴れとした顔だった。
…花嫁の、父。
娘を幸せに嫁がせる、という人生の大役を
1つ、無事に果たしたからだろうか。
『君があの時、自分の生き方を貫いたのは
すごく勇気のいることだっただろ?
…少なくとも、私だったら目先の女性に
こだわってたと思う。』
『…はぁ…』
『その生き方を貫けば
綾と結婚するより
君らしくいられる人に出会えるよ、
そのうちきっと。』
…なんだろうな。
すごく、言葉が深くて温かい。
そして、響く。
共鳴する、というか。
…もしかして。
ふと、思い付いたことがある。
もうすぐ列が前に動きそうだったから、
思いきって、聞いてみた。
『あの…1つ、質問していいですか?』