第3章 ~痛い、恋 ~ (烏養 繋心)
それから1ヶ月、
仕事を言い訳に、
俺は町内会チームを休んだ。
チームに戻ってからは
綾とも出来るだけ普通に接して
何もなかったように振る舞うことに
全力を尽くした。
嶋田と滝ノ上には、
飲みに誘って事の顛末を報告した。
…二人とも、それでよかったと思う、と
言ってくれたのが救いだった。
おふくろには、何も言ってない。
だけど多分、
最近の俺が、以前みたいに
飲みに行く時に"飯はいらない"と
家に連絡しなくなったことや
店番に精を出すようになったことで、
多分、気付いてるんだと思う。
後は…何も、変わらない。
気楽な一人に戻った、というだけだ。
もう、
合コンに誘われることもほとんどなく、
新しい出会い的なものも
笑えるくらいなくて、
相変わらず、
店番と畑の手伝い、
バレーとパチスロ、飲み会。
…これが、綾を失ってまで守った
俺らしい生き方、というのも
どうかと思うけど(苦笑)
そうやって、
半年…経つか経たないかの頃。
夕方の店に、山口がやってきた。
あの、山口だ。
驚いた。
俺に、綾とやり直さないか、と言う。
聞けば山口は、
綾にずっと片想いしてたらしい。
綾のそばにいたくて、
大学時代の彼女とも別れ、
地元に就職した、という。
…こいつだな、と思った。
俺が出来なかったことを、
全部、やれる男。
自分の人生を綾のために使える男。
彼女の父親や家族を安心させられる男。
何より、俺が、納得できる。
山口になら、綾を任せても、大丈夫。
な、綾、
町内会チーム、辞めなくてよかっただろ?
…そう言ってやりたかった。
俺の気持ちを120%理解した山口は、
男らしく綾に告白し、
彼女の新しい恋にちゃんと寄り添い、
あの親父さんにも正々堂々と向かい合い、
綾と結婚する、と報告に来てくれた。
山口の隣にいる綾は、
とてものびやかに見えた。
年下の山口をうまくリードし、
山口の男気に安心して甘えて。
…きっと、
泣いたり弾けたりケンカしたり、
気持ちを自由にぶつけてるのだろう。
俺の前にいた時よりずっと、
若々しく、というのも変だけど…
年相応に(笑)見えた。
よかった、な。
俺も、これで、安心だ。