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~愛ではなく、恋~【ハイキュー‼】

第3章 ~痛い、恋 ~ (烏養 繋心)




車を降りようと
ドアに手をかけた綾が、
ふと、振り返る。

『ねぇ、』

『ん?』

『…1つくらい、私のお願いもきいて。』

『なんだよ?』

『もし、私が、』


綾の、願い。


『もし私が40歳になっても独身だったら、
それはきっと、
こんな忘れられない恋をさせた
ケイ君のせいだから。
その時は、責任もって私のこと、もらって。』

真面目な顔でそんなことを言う。

…そんなこと、あり得ねぇよ。
お前はすぐ、新しい恋を見つけて、
きっと次の男と結婚するさ。

そう思ったけど、
そんなことは、今、問題じゃなくて。

二人で見られなかった未来を、
一瞬だけ共有する、幻。

『…15年後…俺、50過ぎてっぞ?
それでもいいのか?』

『いい。今みたいなケイ君でいてくれたら。』

『よし。
そん時こそ、親父さんに反対されたら、
何もかも捨てて二人で逃げるか。』

『年金手帳と杖は、忘れないでね。』

『50はそんなにジジィじゃねえだろ(笑)』

アハハ。

…笑ってくれた。
最後に、笑ってくれた。

よかった。
よかった。

もう、これでいい。
この笑顔のまま、背中、向けてくれ。


『じゃあね。』

カチャン、とドアが開き、
バッグとクロワッサンを抱えて
綾が、俺の空間から出ていく。

振り返り、ドアに手をかけ、
そして、しっかりと俺の目を見て。


『バイバイ。』


俺の返事は聞かないままドアを閉め、
クルリと家の方に振り返って
まっすぐに歩き出す。

ポニーテールがいつものように
右、左、右、左、と揺れていた。

いつもと変わらない後ろ姿は、
彼女を育てた家族の中に帰っていく。
それをちゃんと見届けながら、

ふと、思う。

綾は、俺の前で、
1度も泣かなかった。

俺は、泣くこと1つ、
思いきり、させてやれなかった。

最後の最後の今日になってようやく
たった一度だけ
ケンカのようなことをしたけど、
それ以外はいつも、
"特別"な時間だったんだよな、きっと。

頑固で、負けず嫌いで、真っ直ぐで。
…親父さんに、そっくり。

優しくて、気が利いて、芯が強くて。
…おふくろさんに、そっくり。

綾はやっぱり、
あの家族の一員だから、

あの家族に馴染める男と、
きっと、幸せになるだろ。


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