第3章 ~痛い、恋 ~ (烏養 繋心)
『それは…ナシだろ。』
『どうしてっ?!』
『俺はさ、
マネージャーの綾のこともよく知ってるし、
つきあってみてからも、
何度もつくづく思った。
綾は間違いなく、
いい奥さんに、いい母親になる。
だから、俺みたいな結婚相手にならない男と
いつまでも付き合うより、
家族が喜んでくれる男、見つけて、
早く、結婚しろ。』
ふぅ…
綾の深い深いため息が聞こえる。
『…ホントに自分勝手に
何もかも決めてるんだね。』
そう、だな。
自分勝手、だよな。
『なら、ハッキリ言ってよ。
さっきから、理屈ばっかり。
どうしたいのか、ハッキリ言って。』
『…』
『もうっ!
傷つけるのがイヤだとか思ってる?
なら、遅いよ。
もう、充分傷ついたし、
泣かせたくない、とか思ってるなら、
その心配もいらない。
泣くより、腹、立ってるもん。
だから、ハッキリ言って。
じゃないと、諦めつかないから。』
…それを言うために、
今日、綾に会いに来たんだから。
俺がいなくても、コイツは大丈夫。
むしろ、俺がいない方がいいはず。
どのみち、未来がないなら、
別れるのは早い方がいい。
中途半端な優しい別れ方より、
憎むくらいの方が、
きっと次に行きやすいだろ。
だから。
『…遊びは、終わりだな。
楽しかったなら、いいだろ?
次は、真面目な男にしとけ。』
返事は、なかった。
そのかわり、
『もう、ここでいい。歩いて帰る。』
シートベルトをはずそうとする手を
掴む。
『…家まで、送る。』
『…今さら、心配、とか言うつもり?
親に顔が立たない、とか言うつもり?
別れるんだったら、関係ないでしょ?』
その通りだけど。
でも、このまま放り出したら、
どうなるかわからない。
とにかく、
家に入るまで、見届けさせてくれ。
家にさえ帰れば、
きっとおふくろさんが察してくれる。
…終わりに向かう、数分間の道のり。
綾の手を掴んだまま、車を走らせた。
二人ともずっと、無言だった。
予想外に、綾も無抵抗だった。
どんなに恨まれても、
彼女が家に帰りつくのを
最後までちゃんと見届けたかった。
ほんの何時間か前、
彼女を迎えに来た時と同じ場所に、
同じようにハザードランプをつけて止まる。