第3章 ~痛い、恋 ~ (烏養 繋心)
『そんなの、勝手に想像して
勝手にダメにするなんて、あり得ない。
じゃあ、ケイ君は今のままでいいよ。
私が働く。』
『…それじゃ、俺が心苦しいんだって。
俺が店番してバレーして、って
好きなことやる代わりにお前が働く、
とか、あんまりにも俺の勝手だろ。』
『じゃ、二人で坂ノ下商店、やろ。
ほら、お酒もタバコも扱えるんだからさ、
コンビニにしちゃう、って手もあるし。
オーナーになっちゃおうよ。
そしたら、アルバイト雇えばいいし、
ちゃんと家族養う利益も出せるでしょ。』
『…あそこは、俺の店じゃねぇ。
おふくろの、店だから。』
『私、頑張る。ケイ君のお母さんに
"任せてもいい"って思ってもらえる位、
頑張るから。』
『綾には、似合わねぇよ。』
汗かいて、朝から夜まで。
日焼けした傷だらけの太い指も、
わけへだてない高校生のあしらいも、
職人技みたいな段ボールの扱い方も、
あの店の全部が、
おふくろが自分で選んで、
人生かけて積み上げてきた
"おふくろの、やりたいこと"の結晶で。
『…綾らしくねぇから。』
『つまり、ケイ君は
私のために頑張る気はない、ってこと?』
『…じゃ、お前、見たいか?
俺が髪、黒くして
サラリーマンになって、
遊びもバレーもやめて、
真面目に家族のために尽くす姿。
…それって、お前の親父さんじゃね?
お前が惚れた俺じゃなくなっても、
俺と一緒にいる価値、あるか?』
『…そんなの、』
『今は、わかんねぇ、よな。だけど、』
先のことなんて、
誰にもわかんねぇよ。
でも、
『俺は、今の綾が好きだ。
そうじゃない未来になった時、
もし、お前が後悔とかしたら、
…お前が俺と結婚したことを
後悔する日が来るかも、と思ったら、
たまんねぇ。
…今の綾と全然違う
お前にしてしまったら、
例えお前が納得してたとしても、
俺自身が、後悔しそうだ。』
『なんでそんなに、弱腰なの?
全部、想像じゃん。結婚してみないと
わからないことばっかりなのに!』
『勢いだけで、
大事なお前の人生、賭けられないだろ?』
お前を楽しくさせる自信は、ある。
でも、お前を幸せにするのは、
俺じゃない気が、するんだ。
ホントに好き、だから。
ずっと、そのままのお前で
いてほしいから。