第3章 ~痛い、恋 ~ (烏養 繋心)
『あたし、ケイ君と話したくて、
電話かけてたけど出てくれないし、
折り返してもくれないし、
どうしていいかわかんなくて、』
あ、それはホントに悪かった。
それはホントに謝らねぇと。
『あれから父ともたくさん話したけど、』
『…親父さん、なんて?』
『自分の気持ちはケイ君に伝えてあるから、
あとはケイ君次第だって。』
…何かを手放してでも
家族を幸せにする覚悟はあるか?
あの言葉がすべて、なんだと思う。
『頑固でしょ、あの人。
世の中は自分みたいな堅物しか
いちゃいけないと思ってるんだから。
ほーんと、ヤんなっちゃう。』
『いや、立派な親父さんだよ。』
『…じゃ、どうして
結婚させて下さい、って言ってくれないの?』
『…』
俺の言葉は、綾に伝わるか?
俺の言葉で、綾は納得するか?
『…何か、言ってよ。』
『あれからずっと、
綾のこと、考えてた。』
マネージャーをしてる綾。
俺と二人でいる時の綾。
家族といる時の綾。
『いつも、
俺にはもったいないくらい眩しくてさ。
ずーっと、見ていたいな、って。』
『…じゃあ、』
『それは、お前があの家で、あの家族に
大事に育てられたから、なんだよな。』
『それは…』
『俺も、考えてみたんだ。
俺達が一緒になったら、って。だけど…』
『…だけど、なぁに?』
『俺が想像する"お前らしい未来の姿"に
俺の姿は全然、思いあたらなくて。』
『…どういうこと?』
こぎれいなマンションに住んで、
綾のおふくろさんみたいに
優しいしっかりした奥さんで、
"ママ"って呼ばれるお母さんで、
ボーナスが出たら
夏休みに家族で旅行に出掛けて、
あの白くて細いキレイな指で
キッチンで紅茶いれて、
家族でクロワッサン食うような、
そんな姿が綾にはよく似合う。
そんな姿が、綾らしい。
そんな綾でいさせてくれる男が
綾にふさわしいと
親父さんだけでなく
俺も、そう思うんだ。
そこに馴染むためには、
俺はきっと"普通のサラリーマン"に
なってるはずなんだけど、
そんな自分の姿が全然、
思い浮かばなくて。
"綾らしい"未来に、
"俺らしい"俺は、いなくて。