第3章 ~痛い、恋 ~ (烏養 繋心)
ちゃんと手を洗って(笑)
トイレを出て、綾を探すと
いた。
なんか、ショーケース越しに
店員と話しながら、財布を開いている。
『なに、買ってんだ?』
『あ、お帰り。ミニクロワッサン。』
『…まだ、食うんだ…』
『違う、私じゃない(笑)家族に、お土産。
ええと、
父は塩バターかな。
兄はプレーンで、
母は抹茶でしょ、
私は…んー、チョコにしようっと。
それぞれ…200グラムづつ下さい。
ケイ君も、おうちにお土産にしない?
紅茶に、よくあうよ~。』
『こんなちっちぇー食い物、
うちの母ちゃんだったら
30個くらい食わねえと腹にたまらねぇな。
買うなら大福だ、大福。』
…こんなシャレたもん囲んで
家族で喋りながら紅茶、なんて、
うちでは100年に1度も、ない(笑)
そして、思うんだ。
やっぱり俺達は、
どこまでも、違う家庭に育ってる。
『…ふがっ…』
口のなかに
急にモソモソしたもんが突っ込まれて、
本気でビビッた。
『ホォヘ、ファンラ?(これ、なんだ?)』
『試食だって。新しい味。ナッツ。
おいしーっ!!ね?!』
『…ぉく、わふぁんへぇ…よ。
(…よく、わかんねぇ…よ。)』
ゴクン、と飲み込んだ俺を見て、
綾は、
楽しそうに、
そして、
眩しそうに、笑った。
今日、二人でいる時間に見た、
キレイなものが全部、
そこにあるように見えた。
カラフルなアイスクリームみたいな
甘くて溶けそうな笑顔。
ハート型のストローみたいな
愛情いっぱいの仕草。
広がる夜景みたいな
キラキラした瞳。
並んで浸かった足湯みたいに
あったかい手のひら。
袋いっぱいのクロワッサンみたいな
たくさんの想い出。
最後の最後まで、
見飽きることがない。
綾の世界は
いつも、俺の知らないもので溢れてて
それが本当によく似合うんだ。
こんなに楽しそうな顔、
いつまでも、しててほしいから。
…言わなくちゃな。
『ケイ君、』
『ん?』
『そろそろ閉店みたい。行こうか。』
『んー。』
"行こうか"じゃなくて、
"帰ろうか"。
それぞれ、
生まれ育った暮らしに、
帰ろう、な。