第3章 ~痛い、恋 ~ (烏養 繋心)
『…ゴール、だね。』
離れた唇から、綾の声。
さっきまで俺達を包んでいた
夜空も夜景も、もう見えない。
見えるのは、白い観覧車の骨組みと、
ゴンドラの扉を開けようと待ち構える
兄ちゃんの姿。
…現実に、戻る。
カチャリ。
鍵が開いて。
『足下、気を付けてくださいねー。』
兄ちゃんの声に、
自然と綾に手を差しのべる。
…嬉しそうな顔でその手を握る、綾。
そのまま手を繋いで歩きだす俺たちに
兄ちゃんが声をかけた。
『ありがとうございました、
またお待ちしていますー。』
別に、意味のある言葉じゃない。
ここに来る誰もに100%かけている、
マニュアル通りの言葉。
なのに、
胸に響いた。
…俺たちにはもう、"また"は、ない…
そのままなんとなく
手を繋いだまま歩く。
今まで、俺は
何を恥ずかしがっていたのか?と
思うほど、自然に手を繋いで。
…うー。
この雰囲気のなか、言いにくいのだけど。
『なぁ、』
『ん?』
『せっかくの手繋ぎデートの最中に
非常に言い出しにくいんだが、』
『?』
俺の顔を覗きこんだ綾が、
アハハハ、と笑う。
『わかった!トイレでしょ?!』
『…あたり…』
『さっきあんなにジュース、飲んだもんね(笑)
トイレ、そっちの角。私、この辺にいるから。』
『わりぃ、すぐ、戻る!』
『ごゆっくり~。
手、ちゃんと洗ってきてね。』
『子供じゃねぇぞっ(苦笑)』
ここぞという時に
カッコよく決めきれねぇよな、俺。
でも
生理現象ばっかりは、しょうがねえだろ…
そんなことを考えながら
トイレに駆け込む。
…バタバタバタ、××××、
うーん、すっきりした…
手を洗う。
せっかくずっと繋いでたのに、
洗うと何もかもが流れてしまう。
いやいや、
また繋ぐためにも
ちゃんと洗わねぇとな。
…いや、
手を繋ぐ繋がないじゃなく、
ちゃんと、言わねぇと。
こんな
普通のカップルのデートみたいなの
楽しみに来たわけじゃない。
終わりだ、って。
別れよう、って。
言わねぇと。
…言えるか?俺。
今日は、止めとくか?
超 楽しんでるところで
わざわざ言わなくても。
いやいや、
運動会じゃあるまいし、
延期しても、
どうにも、
どうにもならねぇ、よな…