第3章 ~痛い、恋 ~ (烏養 繋心)
奥から、綾が走ってくる。
『じゃ、すみません。
綾さん、ちょっと連れていきます。』
『おかーさん、行ってくるね。』
『はい。烏養さん、お願いします。』
玄関を出て二人きりになると
途端に、夜の闇が深く重く感じる。
…今まで一度も、そんなことなかった。
むしろ、夜のデートの方が、
人目を気にしなくていいから
俺としては、気楽だったのに。
『ケイ君、ご飯は?』
『あぁ、バレーするつもりだったから
軽く食ってる。俺は大丈夫。
綾は?腹、減ってるか?』
『大丈夫。』
…まるでいつものデートのように。
当たり前みたいに綾を助手席に乗せ
車をスタートさせた。
あんまり遠くには、行かない方がいい。
帰りの車の中、きっと辛すぎる。
ノープランで来てしまった。
どうしよう…
『ね、今日、21日だよね?』
『ぁ?あぁ、そうだな、21日。』
『アイス、食べたい!
今日なら21%引きだもん!』
『…腹、減ってないって
言ったばっかりじゃねーか?』
『まだ、デザート食べてないの。
ケイ君、あと30分、遅く来てくれたら
よかったのにぃ。』
『そりゃ、悪かったな(笑)』
『もちろん、』
『俺にご馳走させて下さい、だろ(笑)』
『決まり。21アイスに行こう!』
俺の気持ちを知ってか知らずか、
綾は、
あの日のことも、
あの話のことも、全く触れず、
いつものデートのように
ほがらかに笑い、よくしゃべった。
このまま、
いつもみたいにドライブして、
ラブホに寄って、
12時までに帰らせればいい…と、
思いそうになった。
そうできたら、どんなにいいことか。
異様にカラフルな彩りのアイス屋で、
店員に勧められたアイスを試食し、
さんざん迷ったあげく、
オモチャみたいな色のアイスを
二段重ねでカップにいれてもらった綾。
『ケイ君も食べる?ほら、あーん!』
『やめろ、恥ずかしいだろ、
誰が見てるかわかんねぇん…』
『だいじょぶっ!町内会チームは
今、みんな練習中だから、絶対ここには
いないもんっ。ほら、あーんしてっ!』
かぷ。
冷たくて、甘い、アイス。
人前で、どこからみても、恋人同士。
冷たくて、甘い、アイス。
胸が熱くて、なぜだか苦い。
…愛しくて、愛しくて。