第3章 ~痛い、恋 ~ (烏養 繋心)
『バカで悪かったな(笑)』
『バカな子ほどかわいい、って言うからねぇ(笑)』
『…どーすっか、わかんねえけど。』
『お前が決めることに反対はしないよ。
だけどさ、』
『出来れば孫の顔が見たい、だろ?』
『違う。そんな当たり前のことじゃなくて、』
『(笑)なんだよ?』
『見栄張って、
大きすぎるもの背負っちゃ、だめだよ。
スタートだけなら誰でも出来るんだから。
例え地味でも、
最後まで責任もって背負えるもので
ちゃんとゴール出来る方がいいと、
アタシは、思う。』
『…だから、バイトは雇わねえんだ。』
『そ。
アタシはアタシの背負える範囲で
この店をやるって決めてっからね。
お前も跡継ぎなんて考えなくていい。
もう、そこそこの経験、積んでんだろ?
自分の背中、考えて決めな。
…さてと、ご飯、温めなおしとくから、
これ、裏に運んで、風呂入っといで。』
とっとと過ぎ去る、見慣れた背中。
あの背中に背負われてるものの中に、
まだ、俺も、いる。
まだ全然、親の背中から飛び立てない。
…やっぱり情けないな、と思いつつ、
話せてよかった、とも思った。
おふくろと
こんなに真面目な話をすることは、
多分、もう、ない気がする。
俺の背中は、
何を、どれだけ、背負えるだろうか。
俺は、変わるのか?
それとも、変わらないのか?
綾の顔。綾の両親の顔。
俺の親。バレーの教え子達、
この店に来る高校生。
その日とその翌日は、
いろんな顔が
グルグル頭の中を行ったり来たり、
浮かんだり消えたりして、
人生で一番、
脳ミソが働いた2日間だったと思う。
…考えがまとまらなくて、
綾に、電話は出来なかった。
きっと待ってると分かっているけど、
きっと辛い思いさせてるはずだけど、
中途半端なことは言えないから。
俺のこと、優柔不断だ、って思うか?
でも、俺にとっては、そうじゃない。
途中で何度も電話しようと思った。
でも、声を聞いて、心が揺らぐ方が
優柔不断だと思ったから。
そりゃ、声を聞きたかったし、
綾と相談したかった。
でももう、
ここから先は、俺の決断1つだ。
自分で悩んで、悩んで、決めて、
もう絶対に揺るがない、と思えるまで
電話しないことの方が、
俺にとってはずっと辛かった。