第3章 ~痛い、恋 ~ (烏養 繋心)
『自分を捨てて家族を守るって、
カッコいいし、なんか男っぽいけど、』
ボボボボッ。グシャ。
また、段ボールを潰し始める。
照れ隠しのように。
『うちの父ちゃんは、逆だった。
お互い、好きなことやっていけるように
結婚しよう、って。』
…そういや、聞いたことねぇな。
親父とおふくろのプロポーズ。
『アタシはほら、
親が共働きだったから
ちっちゃい頃からこの坂ノ下商店で
ばーちゃん達に世話してもらってて、
ここが大好きで大好きでね。
跡継ぎいなくて店、閉めようかって
ばーちゃん達が話してるの聞いて
ショックでさ。
なんとかしてあたしが跡継げないか、って
幼馴染みだった父ちゃんに相談したんだよ。
父ちゃん、その頃、会社勤めだったから
そういうこと、詳しいかな、と思って。
そしたら父ちゃんは、
"自分も、烏養のじいさんの畑を
いずれ継ぎたいから、
そのうち会社辞めるつもりなんだ"って。
そんで、急に、結婚しないか、って。
あたしが自分で稼ぐなら、心強い。
店に口出ししないし、
烏養の家にもそれは承知させるから、
結婚して、俺に農家、継がせてくれ、
だってさ。』
『つきあってたわけじゃ…』
『ないない!
オムツの頃からの友達。
好き嫌いの対象外、だったのにさ。
…結婚しよう、って言われた瞬間から、
あぁ、そうだな、この人と結婚しよう、
って思っちゃったんだからウブだよねぇ。』
『父ちゃん、案外、大胆だな。』
『ねぇ。あんな男らしかったの、
あの時一回だけだったけど(笑)』
『後悔、してねぇの?』
『しょっちゅう、してる(笑)
でも、あの時、結婚断ったり、
この店、潰したりした方が、
多分、ずーっと後悔しただろね。』
『…俺は、どうしたら…』
『そんなの、自分で決めな。でもさ、』
段ボールの山を紐でくくる手つきは、
この道数十年のベテラン。
自分で決めたことを毎日やり続ける、
というのは、
男でも女でも
親でも他人でも
大きなことでも小さなことでも
…カッコいい。
『恋愛は
"今"がよければいいかもしんないけど、
結婚は
"一生"をかけるものだから。
相手の人生だけじゃないよ。
自分にとっても一生をかけるんだ。
相手のことと同じくらい、
自分のことも考えてほしい、
…なんて甘いこというから、
息子がこんなバカになるのかね?』