第3章 ~痛い、恋 ~ (烏養 繋心)
『だから?』
『よその人は雇わない。』
『…じゃ、俺は店番、辞められねぇじゃん。』
『本気で会社員になるっていうなら
店番なんか気にしなくていいよ。
結婚だってもちろん賛成。
あたしより年上はさすがにNGだけど。』
『んなわけあるかいっ!
むしろ下すぎるくらい年下だっ!』
『…結婚も就職も、親の立場としては
そりゃ、してくれたら嬉しいよ。
だけどさ、』
動き続けてた母ちゃんの手が、止まる。
ふぅ。
母ちゃんは腰を伸ばしながら、
1つ、大きな息をついた。
『お前、高校出てから結局、
何の仕事も続かなかっただろ。』
くそばばぁ…
『今、それ言うか?』
『…つまんなそうな顔で
店番してるの見てると、
この先どーするつもりなのか…って
心配だったけどさ、』
?
『烏野にバレー教えに行くようになって、
やっと昔のお前に戻ったなぁ、って。
こんなちっちゃな店だけど、
お前の居場所、残しといてよかった、
…って、あの頃、思ったんだよ。』
?!
『彼女がどんな人か知らないけどさ、
きっと相手の親からしたら、
お前みたいなのに娘、嫁がすの、
やっぱ、心配だと思うわ。
親の私でもそう思うからねぇ(笑)』
笑い事じゃ、ねえけど。
…今は誰より心強い相談相手に見えた。
『彼女の親父さんに言われた。
自分を捨てて彼女を幸せにする努力が
出来るのか、って。』
『…立派なお父さんなんだろうね。
きっと自分がそうやって
家族を守って養ってきたんだよ。』
"自分は嫌われてもいい"と言ってた。
家族の…娘の…幸せのためなら、
どんなことでも言えるし、やれる強さ。
『うちの父ちゃんとは逆(笑)
お前、そんなこと言われたらビックリしたろ?』
『…あぁ。正直、負けた、と思った。』
『そういうのかっこいいなぁ、
ってアタシもちらっと思うけどさ、』
母ちゃん、笑ってる。
ケラケラ、じゃない。
静かに。
遠くの何かを思い出す、笑顔。
…なんか、
変な言い方かもしんねぇけど、
気持ち悪い気もするけど、
なんとなく、
幸せそうな笑顔に見えた。
段ボールに埋もれ、
クタクタに疲れた1日の終わり、
汗だくで、腹も減ってるだろうし、
まだ家事も山積みなのに、
情けない息子の相談にのりながら、
幸せそうに、見えた。
今まで、
見たことない顔、だった。