第3章 ~痛い、恋 ~ (烏養 繋心)
茶の間に行くと、
親父が先に一人で飯を食っていた。
『あれ?母ちゃんは?』
『まだ店。』
『なんで?』
『雨、降りそうだから、
その前に段ボール片付ける、って。』
…今日は半日、
俺の都合で店番してもらった。
午後もハンパねぇ忙しさで
俺でもクタクタなのに。
『…ちっと、手伝ってくる。』
食卓に並んでいたあの笹かまぼこを、
1つ、パクリとくわえる。
…綾、ほったらかしにしてわりぃ。
こっち、今、現実で大忙しだ。
ちっと、待ってろよ…
そう心のなかで呟きながら。
店の裏。
ボボボボッ。グシャ。
ボボボボッ。グシャ。
段ボールを開いて潰す音がする。
母ちゃんが一人、モクモクと。
『…そんなん、俺がやんのに。』
『あれ、お前、ご飯は?』
『あとでゆっくり食うから。』
俺も段ボールを手にして、手伝い始めた。
『…母ちゃん、』
『ん?』
『アルバイトとか、雇わねぇの?』
『なんで?』
『なんで、って…いつまでも俺が
ここ、手伝うとは限らねえしさ、
母ちゃんだって、いい年だし。』
『…繋心、お前、結婚、考えてんのかい?』
びっくり、した。
アルバイトの話、してるっつーのに。
『は?なんで?』
『いいとこの、お嬢さん?』
『だから、なんでだよ?』
『ここんとこ、お前、お利口さんだからさ。
朝帰りとか外泊もしなくなったし、
夕食いらない、とか電話してきたり。
…多分、
電話してこない時は友達と飲み会で、
電話してくる時は、彼女とデートだろ?』
…図星すぎて、答えに窮する。
『今日は、多分、
彼女の家に伺ったんじゃないかい?
急にYシャツだネクタイだって騒いで。
結婚式でも行くのかと思ったら、
シラフで帰ってくるし、
持って帰って来たのは
引き出物じゃなくて、高級笹かまだし。』
『…探偵か?』
『刑事ドラマ見ながら、
推理力、鍛えてっからねぇ(笑)』
…ホント、母親には敵わねぇ。
『まぁ、な。…でも、
まだ決めてるわけじゃねぇよ。』
『決めらんないんだろ?
結婚ともなれば、お前、今みたいに
店番とバレーじゃ家族、養えないもんね。』
『…だからさ、アルバイトとか…』
『ここは、あたしの店だから。』
『当たり前だろ?』
『あたしの手の届かない範囲のことは
しないって決めて継いだんだよ。だから、』