第3章 ~痛い、恋 ~ (烏養 繋心)
はっ、とスマホを取り出す。
綾からの着信が、5件。
…無視してる、と思われただろうか?
…親父さんと、ケンカしただろうか?
…母親にも、八つ当たりしてるのか?
…それとも、部屋にとじ込もってる?
いい返事も悪い返事も出来ないまま
帰ってきてしまった。
多分、一番、苦しめる展開だ。
スマホの画面をタッチする。
"森島 綾"
…かけよう、と思ったけど、
かけなくちゃいけない、と思ったけど、
声を聴きたい、と思ったけど、
声を聴かせてやりたい、と思ったけど、
どうしても
その名前をタップすることが
出来なかった。
今、電話しても
何をどう言っていいのかわからない。
声を聞いたらきっと、
お互い、冷静ではいられない。
一緒にいたい。
先のことなんか知るか。
まわりのことなんか考えるな。
俺らさえよければいいじゃないか。
年齢の差が何だ。
ずっと、楽しかったじゃねぇか。
むしろ綾の方が
俺よりずっとしっかりしてっし。
二人で働けばなんとかなる。
綾と母ちゃんに店をしてもらって
俺が外に働きに出てもいいし。
今、少々、親が反対したって、
俺たちが仲良く幸せにしてれば、
そんでそのうち孫でも産まれれば、
きっとかわる。
何より、
お互いに一緒にいたいと思うんだ。
離れる理由なんか、1つもねぇ。
な。
『一緒にいたい。』
それだけで、充分じゃねぇか。
…そう、思う。
そう言ってやったら、
きっと綾は、泣いて喜ぶ。
そうわかっているのに、
そう言ってやれない理由を、
俺はこれから
自分の心の中から
探し出さないといけなくて。
こんなに苦しいこと、
他に、あるか?
頭が全然働かねぇのは
なんでだよ?
…キュルキュルキュルキュルゥ…
あ。
減ってるからか。
そうだそうだ、
俺、今、腹が減って、
イライラしてんだな。
飯、食ったら
また、考えも変わるかもしんね。
いいこと、思い付くかもしんね。
とりあえず、飯だ、飯。
綾、ちょっと待ってろ。
思考回路、整理できたら
ちゃんと連絡すっからな。