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~愛ではなく、恋~【ハイキュー‼】

第3章 ~痛い、恋 ~ (烏養 繋心)




綾と母親に見送られて
車を出発させた。

角を曲がり、
綾の家が見えなくなったところで

『ふぅっ…』

大きく息を吐くと、
体の力が抜けて、
自分の頭や両腕が、
ズシーンとイッキに重たく感じられる。

…すげぇ、緊張してたんだな…

少し気持ちの整理をしたくて
このまま一人でドライブでも、と
思ったけど、
着なれないワイシャツやネクタイが
なんとも勝手悪い。

とりあえず、帰って、着替えるか。

何から考えていいかわからないほど
ゴチャゴチャになった頭の中を
とりあえず保留にして、

家で、寝転がって
ゆっくり考えよう。

家で、
ビールでも飲みながら(昼だけど)
ゆっくり考えよう。

そう思っていたのに、

…そうは、いかなかった。

車を降りたとたん、
店の方から母ちゃんの声が飛んで来る。

『あぁっ、繋心、帰って来た!
ちょうどよかった、店、店!
品出し、手伝っておくれ!!
今日、烏野で試合でもしとる?
えらい勢いで
冷たいもんとパンが売れよる!』

…そうだった。これが、俺の、日常。

『おぃ、重いもん、無理して持つなよ、
腰とかヤッたら面倒だろ?
すぐ、着替えてくっから。
…あ、これ、もらった。晩飯に出して。』

綾の家からもらった笹かまぼこを
母ちゃんに手渡す。

『何ね?…ま!矢部の笹かま!
こんないいもん頂いて…
お前、どこ、行ってたんだい?』

『…知り合いんち。』

ほい、と笹かまぼこの箱を
母ちゃんに手渡す。

受け取る母ちゃんの手。
ウインナーみたいにムチムチして
こんがり日焼けしてて。
ところどころに、小さな傷。

…ちっちぇー時から、
これが当たり前だと思ってた。

綾の母親の手を思い出す。
笹かまぼこの上品な箱によく似合う
細くて白い、キレイな手。

同じ母親でも、
こーんなに違う。

…綾のことを思い出した。

マネージャーとして働く手。
バイバイ、と別れ際に振る手。
旅先で、嬉しそうに繋いだ手。
俺の体のあちこちに触れる手。

大事に育てられてきたアイツの手は、
白くて細くて、母親に、そっくりで。

…俺が、汚しちゃいけねぇよな。

結局、
それからずっと店はバタバタしてて
俺も母ちゃんも、夕方、閉店した時には
クタクタだった。

…悩むのも、忘れていたほどに。

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