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~愛ではなく、恋~【ハイキュー‼】

第3章 ~痛い、恋 ~ (烏養 繋心)



どのくらい時間がたったのか、
全く、感覚がない。

『…私ばかり話してしまって申し訳なかった。
もし言いたいことがあれば、
いつでも時間は作るから。』

『はい。』

『おーい、母さん、綾。』

向こうに声をかけながら
綾の親父さんは立ち上がった。
和室を後にしながら、
最後に言葉を残して。

『今日はわざわざ、ありがとう。
会えてよかったよ。』

…本音、だろうか。
それとも立派な社交辞令?
後ろ姿を見送っていたら、
バタバタバタ、っと足音がして
綾が飛び込んできた。

『ケイ君!』

『綾、』

『お父さん、何て?』

『ん?』

『話した?結婚のこと。』

『あぁ、うん。』

『…ダメ、だって?』

『いや、』

『え?いいって!?』

『んー…』

答えあぐねていたら、
廊下の向こうから綾の母親が
やってきた。

『こら、綾。
烏養さん、困ってらっしゃるじゃないの。
相手をよく見て言葉を選びなさい。』

『だって…私たちのことでしょ!』

『烏養さん、
このまま綾とお話されるなら、
どうぞ、この部屋、お使いください。
すぐにお茶、入れ換えますから。』

『…いや、今日はこのまま失礼します。』

『ケイ君!』

『ね、綾。』

後ろから、
綾の肩をそっと押さえた母親。

『玄関に、ご案内なさい。』

穏やかながら有無を言わさぬ母親の声に
さすがの綾も引き下がる。

二人で玄関に向かい、
靴を履きながら、綾に話しかけた。

『考え整理してからまた連絡する。
ちょっと、時間くれ。な?』

『…うん…』

玄関を出ていこうとしたら、
奥から綾の母親が出てきた。

『烏養さん、今日はわざわざ
ありがとうございました。
これ、ほんの気持ちですけど…』

差し出された包みは、笹かまぼこ。
名物とはいえ、このランクのものは
自分のために買うことは、まず、ない。

『今夜のお酒のアテにでもして頂けたら。』

…心遣いが、やっぱり綾に似てて。

箱を差し出す、白くて細いきれいな指。
それもやっぱり、綾に似てて。

綾は、この家で育ったから、
綾なんだな…

そんなことを、思った。


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