第3章 ~痛い、恋 ~ (烏養 繋心)
先に口を開いたのは綾の親父さん。
苦笑いをしながらも、
決して怒った顔ではなく。
『…結構なワガママ娘で。
お手数かけてるんだろうなぁ。』
『いえ、チームでもみんなに頼られて、
ホントに明るくてしっかりした
最高のマネージャーですし、』
…言ってもいいのか?
俺といる時のこと。
俺のためらいを掬い上げるように
問いかけてくる。
『君の前では、ちょっとは女らしいか?』
『はい、元気で楽しくて新鮮で…すごく魅力的です。』
『そうか。
あんな反抗的な態度をとられても
娘が褒められるのは、
やっぱり嬉しいんだよなぁ。』
『そうですよね、きっと。』
…沈黙。
そして、
会話のギアが切り替わったのが
空気で、わかる。
やっぱりこの場に
綾がいなくてよかった。
きっとこの沈黙に耐えられなくて、
あれやこれやと話をしては
本題に入るまでの道のりを
遠くしたがっただろう。
『なぁ、烏養君、こうしてわざわざ
うちまで来てもらったことだし、
私は、男同士、腹を割って話したいと
思ってるんだ。どうだろう?』
NO、とは言えねぇよな(苦笑)
…という思いの一方で、
俺もそうしたい、という気持ちも
確かに湧いてきてる。
理由?ある。
目の前のこの男性が、
"ジジイ"じゃなくて
"親"だということが
わかってきたから。
俺よりずっと長いこと、
それこそ綾の今までの人生の
全てを見守り、支えてきた人だ。
この人と分かりあえなければ、
一歩も先には進めない、ということは
いくら俺でも、わかる。
『君、歳はいくつだ?』
『38です。』
『綾は、25だ。』
『はい。』
『親としては、まぁ、そろそろ
結婚も視野に入れられるような人と
つきあう頃か…と勝手に思っててね。』
『はい。』
『烏養君は、その辺り、どうなんだ?』
きた。いきなり。真っ直ぐに。
『…もちろん、考えてます。』
『それは…君の本音だろうか?』
『は?』
『例えば、
綾にねだられて、とか
もしくは逆に、
綾が敢えて結婚を言い出さないのを
君が心苦しく思って、とか、
そういう消極的な理由ではなく、
心の底から綾を幸せにしたい、と
君自身が思って、結婚を考えてるのか?
ということだよ。』