第3章 ~痛い、恋 ~ (烏養 繋心)
綾が選んでくれた菓子折りのお陰で
その場の雰囲気が少し和やかになる。
…やっぱ、頼りになるな!
そんな気持ちを込めて、
俺も綾をチラリと見る。
言葉にしなくても
お互いだけに通じてるこの感じが
俺の心をグッと支えてくれた気がした。
そしたら。
『綾、ここからは
お父さんと烏養君、二人で話すから
お前は席をはずしなさい。』
『『え?!』』
…思わず、俺と綾の声が揃う。
『なんで?
私のこれからのことを話すのに、
なんで私がいちゃいけないの?』
『男同士の話をしたいからだ。』
『何、それ。お父さんとケイ君は
今日、初めて会ったばっかりでしょ?
私が二人の真ん中にいないと、』
『綾は、お父さんのことを信用してないのか?』
『してないっ!』
…おーい、先に場を炎上させるなよ…
しかし、父親は慣れたもので。
『そうだろな(笑)
じゃ、烏養君のことも信用出来ないのか?』
『ケイ君のことは、信用してるっ。』
…だから、そうやって言うのが
すでに親父さんに失礼だってば。
綾がそんなこと言ったら
親父さん、おもしろくねぇだろ…
しかし、さすが父。揺るがず。
『なら、烏養君を信用しなさい。
烏養君が綾に不利益になることを
言うはずないだろ?』
…なんだ、この根拠のない信頼は…
『なんか丸め込まれた気がする!
お父さん、絶対、何か企んでる!』
いつもの綾とは違う。
本当に、反抗期の娘そのもの。
だけどそれは、
綾が俺を守ろうとしてくれてるからで…
つまり、
綾が反抗するのは、俺のせいでもある。
『だーいじょぶだから。
俺も、男同士の話、賛成です。』
…そう言うしか、ねぇだろ。
『ケイ君…』
『ね、綾、
烏養さんもそうおっしゃってるんだから。
ここはお父さんと烏養さんにお任せしましょ。
ほら。』
…母親に促されて、
渋々、部屋を出ていく綾。
とても機嫌が悪い、というか不安な顔で
こっちを見ながら。
大丈夫。心配するな。
…今は、そうやって
頷いてやることしか出来ない。
二人分の足音が、廊下から遠ざかる。
お茶と、
どら焼きと、
男二人。
…俺、近年まれに見る、緊張。