第3章 ~痛い、恋 ~ (烏養 繋心)
『烏養君は、ここが地元かな?』
『はい。烏野高校を出てます。
家も近くで…今もバレー部のコーチを…』
『お父さん、ほら、烏野のバレー部が
春高に出たことがあったの覚えてる?
あの時も、ケイ…じゃない…烏養さんが
教えてた世代なんだよ。』
『ほう、"小さな巨人"だったかな?』
『あ、それは
うちの祖父が教えてた世代です。』
『お祖父さんも、バレーを?』
『はい。』
『綾とも、バレーで知り合ったとか。』
『そう!
烏養さん、町内会チームの主力だし、
高校生の心を掴むのも上手だよね!』
『いやいや、そんなこと…』
『ほんとよ!
卒業した教え子君達にも、
今でもすごーく慕われてるし。』
『ゴルフは?』
『ゴルフは…
なぜだか、止まってるボール打つのは
苦手みたいでして。』
『バレーなら、
どんなボールでも平気なのにね!』
綾が一生懸命、
俺のイメージアップをしてくれてるのが
伝わってくる。
ありがたい、と思いながら、一方で、
この社交辞令みたいな会話の流れから
どうやって本題へ切り出すべきか
測りかねていた。
多分、綾も、
その話題になるのを、
ジリジリしながら待ってるはずで。
バレーの試合運びなら
あれこれ流れを読めるのに、
こういう"大人の駆け引き"は
どうも苦手だ…
えぃ、
先手必勝、ってことで
いっそ、こっちから切り出すか?!
いや、短気は損気ともいうし、
ここは待ちの姿勢を貫くべきか?!
うぁぁぁっ、
わ・か・ん・ね・ぇぇぇっ!!!
…その時、
障子の向こうから声がした。
『お茶をお持ちしましたよ。』
絶妙なタイミング。
綾の母親が障子を開けて入ってきた。
『綾、手伝って。』
綾が急須から熱いお茶を入れ、
母親が茶菓子を出してくれる。
『あなた、これ、烏養さんから。
烏養さん、お持たせで申し訳ないですけど
主人の好物なので、出させて頂きますね。』
『お!これは"おだま"のどら焼きか?』
『しかもあなたのは、
一番好きな"餅入りくるみ"。』
『そうか。久しぶりに食べるなぁ。』
…お茶を入れていた綾が
チラッとこっちを見て、笑う。
少し和んだ場の雰囲気に
ホッとした。
…話、切り出すの、
焦らなくて、よかった…