第3章 ~痛い、恋 ~ (烏養 繋心)
初めての二人旅をたっぷり楽しんで
俺たちが住む街に戻ってからは、
それ以前より少しだけ
二人の距離感がかわった。
…二人の、というより
主に、俺の気持ちの変化?
それまでは頑なに
"誰にも見られたくねぇ"
"人に知られるのは困る"
と身構えていたのだけど、
あれ以降は
少しだけ、開き直った。
もちろん、チームの中では
あくまでも、マネとメンバーだし、
人前でイチャつくこともないけど、
時々は地元近辺で
デートしたりするようには、なった。
なんで?
なんでだろーな?
少しだけ、
"本気"になったからかもしんねぇ。
綾の、
"いつも愛情一杯"の気持ちに
応えたくなった。
"年上の珍しさ"とか
"親に反抗したい年頃"とか
そういうのだけじゃなくて、
ホントに"俺"と一緒にいるのを
楽しんでくれてるのが伝わってきたから。
一緒にいる時間を、
"特別"じゃなく、
"普通"にしたかったから。
…とはいっても、
朝帰りなんかは、絶対、させない。
ちゃんと日付が変わる前に帰らせる。
パチスロやタバコも
あれっきり、させてない。
俺なりに、綾を大事にしてる。
綾もそれを感じてくれていて、
もう、
無駄に親に反抗することも
刺激を求めることもなくなり、
至って普通のカップルとして
穏やかに過ごすようになった。
ケンカも、ほとんど、ない。
ぶつかるくらいなら、俺がひく。
…ケンカの原因つったって、
ホントに些細なことばかり。
綾を
怒らせたり悲しませたりしてまで
ぶつかりたいことなんか、ない。
年上の俺がおおらかに受け止めれば
別に争うほどのことなんて、
日常生活には、ほとんど、ないもんだ。
そんな付き合いが、
1ヶ月たち、
2ヶ月たち、
半年たち、
やがて1年になると、
穏やかな毎日は
"当たり前"になり、
"当たり前"が続くと
"変化"が起こるのは
まぁ、避けて通れないこと、
…なのだろうか。
俺は、
このままでよかったんだけど。
いや、そう思う俺の考えこそが、
自己中心的だったんだろーな。
自分の居心地のよさしか
考えてない、というか、
現実から逃げてる、というか。
俺の弱点、というか
頑固さ、というか
…俺らしさ、というか。