第3章 ~痛い、恋 ~ (烏養 繋心)
俺はもともと、
長湯するタイプではないので、
ざっと身体を流し、
ちょっと湯船に浸かって
先に一人で部屋に戻った。
…広く、静かに感じる。
乱れたままの布団を整えて、
冷蔵庫のビールを取り出し、
窓際の、小さな応接セットに
腰をおろして飲んでいたら、
綾が戻ってきた。
『さっぱりしたか?』
『うん。気持ちいい。』
『…下着、つけてきた?』
『え?うん。』
『見せろよ。』
『ええっ?今さら?』
『見るだけだって。何もしねぇよ。
もう、俺の体力が持たねぇし。』
…多分、今日のために
新しく買ったはずの下着。
俺に見せるのを楽しみに選んだはず。
『…見るだけ、だよ?』
躊躇しながらも、
その奥に、
嬉し恥ずかしな顔が見える。
…誰にでもは、見せない顔。
遠慮がちに開いた浴衣の中に、
白い肌をくっきり際立たせる
下着の上下が見えた。
黒のレースに、鮮やかな花の刺繍。
『…ちょっと地味、かな?
もっとハデな方が、好き?』
『よく似合ってるじゃねぇか。』
パァッ、と、表情に光が指す。
『ほんと?』
『あぁ、ホントに。綾にピッタリだ。』
…甘い言葉なんて苦手な俺にしては
頑張って、褒めた。
下心じゃ、ねぇ。
いつも、たくさん、俺にくれる
真っ直ぐな思いを込めた言葉に
何か、ちゃんとお返ししたくて。
好きだ、とか
愛してる、とか
かわいいな、とか
そういう甘いことは
なかなか言えないけど、
大事だ、って伝えたくて。
『うれしー。これにしてよかったぁ。』
自分の体を見下ろしながら
呟く姿が、かわいらしくて。
『…いつも、夜、寝るときは、どーしてんだ?』
『何?』
『ブラだよ。つけっぱ?はずす?』
『はずす、けど?』
『じゃ、いつも通りにしろよ。そろそろ、寝るぞ。』
『また、する?』
『もう、やらねぇって。
オッサンは、体力の限界(笑)
ゆっくり、寝ようぜ。』
俺が先に布団に入り、横に呼ぶ。
『ほら、電気、消して。ここ来い。』
『ん。』
電気を消し、ブラをはずして、
布団にもぐり込んでくる綾を
腕枕で抱き締めた。
風呂上がりのぬくもりと香りが伝わってくる。
…久しぶりだな、
女と朝まで過ごす、って。