第1章 ~二番目の、恋~ (及川 徹)
2セット連取で一試合終わり、
木兎と二人、急いで外に出る。
並んで待ってるファンの向こう側に、
彼女がいた。
この状態で、
彼女にだけ話しかけるのは無理、
ということは、
さすがの木兎もわかっている。
…彼女にも、それはわかるらしい。
ニッコリ、笑う。
そっと両手をパチパチとあわせ、
拍手をしてくれて。
そして、
口元が、動く。
『来て、よかった。』
小さく手を振り、
くるりと振り返って去っていく。
『オイカワ、今、来てよかったって、』
『うんうん、確かにそう言ってた。
これは可能性、繋いだんじゃない?』
少しファンの子達の相手をし
体育館に戻って
二人で並んでストレッチをしていると、
木兎が聞いてきた。
『あのさ、試合中、
綾ちゃん、どんな顔してたか、及川、見てた?』
…え?
『コタローちゃん、見てないの?』
『最初は見てたよ、最初は。
でもさ、今日、あんまりにもビシバシ決まるから
楽しくて楽しくて!
気付いたら、勝って終わってたんだよね!
試合中、綾ちゃん、俺のこと、見てた?
楽しそうだった?』
…木兎のことを、羨ましいと思う。
あんなに熱望してた彼女が来てくれて、
それで調子も絶好調だったというのに、
途中からは
彼女のことを忘れて
試合に没頭してた、なんて。
目の前のことだけに集中できる、
猛烈な単純さ
…いや、
シンプルな強さ。
『一番大事』なものを
『たくさん』持てるヤツ。
木兎が俺と一番違うのは、ソコだ。
『…な、どうだった?
オイカワも見てなかった?
綾ちゃん、一人で退屈じゃなかったかな?』
笑える。
俺の『一番大事』な相棒が、
かわいくて、笑える。
『だーいじょうぶっ。俺、見てたよ。
コタローちゃんが決めるたびに拍手してさ、
だんだん前のめりになって、
コートチェンジの時には、席に座ってた。
それも結構、前の席だったよ。』
『楽しそうだった?』
『さっきの顔見ればわかるじゃん。』
…本当は
『コタローちゃんに、惚れたかもよ』
って言うつもりだったのに、
素直に言葉に出来なかった。
もし、木兎が彼女に本気になったら
俺の『一番』じゃなくなりそうで。
わかってる。
木兎は、『全部を一番』に出来るヤツ。
でも、
コタローちゃんの相棒は、
俺、だ。