第1章 ~二番目の、恋~ (及川 徹)
土曜日。
都内のバレーの強い大学が集まっての
強化試合が行われる。
公式試合ではないものの
それこそ次世代の日本代表候補クラスが
続々、顔を揃えるということで、
Vリーグのスカウトや
バレー雑誌の記者の姿も。
そして、応援の女の子は、た~くさん。
うちの学校のこの体育館は
地方都市の市立体育館くらいの大きさはあるから
スタンドにもちょっとした応援席があり
そこそこの賑わいっぷりだ。
木兎は、
朝から絶好調。
なぜなら…そう。
『及川、来てるっ、ほら、あそこっ!』
…今日は
ジャージでも白衣でもない私服姿で
スタンド席の一番うしろの
そのまたうしろの壁際に
そっと一人で立っている彼女。
木兎が大きく手を振ると
彼女じゃない他の女の子が
わーっと手を振り返して喜び、
俺が軽く手をあげると
俺のファンの子が勘違いして
キャーキャー騒ぐ。
『くーっ!
もうちょっと前に来ればいいのにっ。
全然、アプローチ出来ねーじゃんっ。』
『いや、さすがに一人で
あのファンの群れに混ざるのは
なかなか勇気いるって。
来てくれただけでも感謝しなよ。』
『…ま、そうだよなっ。
遠くからでも見えるように
超 活躍、するしかねぇかっ。』
そうそう、その気持ちを
プレーに反映させてくれるのが
一番、ありがたいわけで。
その日の木兎は
最初から面白いようにスパイクが決まり、
木兎が絶好調だと
効果的にその他のスパイカーも決まり、
俺も、こんなに気持ちよく
トスをあげたのは久しぶり、
というほど、絶好調だった。
そのうち木兎は
プレーに集中し始める。
…そう、あの"光"を放ち始めるのだ。
敵も味方も観客も関係者も
みんなが木兎のプレーを見て
ワクワクし始める、あの"光"。
そして、
俺は、見ている。
ネットの向こうの敵が
木兎への警戒を強めて、
結果、それがますます
木兎への注目を集める様子。
その注目をエサにするように
木兎の調子が上がっていく様子。
それまで、一番後ろで
そっと立って見ていた彼女が
少しずつ身をのりだし、
少しずつ前にやってきて、
やがてあいている席に座り、
決まると嬉しそうに拍手する姿も。
あぁ、木兎の魔法に、かかった。
もう、彼女はきっと
木兎のことが気になり始める。
木兎は、またこうやって
自分の欲しいものを、手にいれる。