第3章 ~痛い、恋 ~ (烏養 繋心)
仲居さんが食事の後片付けをし、
部屋に布団を敷いてくれたのは
それから間もなくのことだった。
『お部屋、準備しておきますから
お風呂、行って来られます?』
と聞かれたから、
瞬時に俺が返事。
『いや、腹一杯だし飲んでるから、
風呂はあとでいいよな、綾。』
『え…そうだね、でもちょっと、
お風呂、入りたい気もするけど…』
『あとで、な。あとで。』
…出来上がってるはずの身体。
流させてたまるか。
冷まさせてたまるか。
ヌルヌルのところはヌルヌルのままで、
ベタベタのところはベタベタのままで、
愛させろ。
俺は、
小さなソファーセットに座り、
綾は窓際に立って、
黙って、外を見ている。
だけど、俺は知ってる。
ガラスに写っている綾が見てるのは、
外の暗がりじゃない。
ガラスに写っている部屋の中、
仲居さんが布団を敷く様子を、
じっと見てる。
…もう間もなく、
その布団の上で自分がどうなるのか、
きっと、想像しながら。
想像しながらきっと、
浴衣の下の何も身に付けていない身体の
あっちこっちを疼かせてる。
俺が手を出さなくても、
勝手に"女"の準備が整ってるはずで、
それを想像するだけで
勝手に俺の"男"の準備も整っていく。
…じっくり愛し合いたいって、
大事だから意地悪したいって、
自分より相手を悦ばせたいって、
他の誰とも違うことをしたいって、
俺、今、猛烈に、思ってる。
何をしても、間違いなく綾は
俺の言うことを聞いてくれるだろう。
恋人としての俺を、
信じてくれてるから。
『お待たせしました、
明日のご朝食は8時で承っております。
食事処にお越しください。それでは
ごゆっくり、おやすみなさいませ。』
仲居さんが、出ていく。
今度こそ、もう、誰も来ない。
静かな一瞬。
ゴクリと唾を飲む音まで聞こえそうだ。
『…鍵、かけとくか?』
ん。
小さく頷き、綾が動く。
…カチャン。
指先から聞こえた小さな音は、
二人きり、のサイン。
待ちわびていた時間が訪れた合図。
目の前には、
眩しいほど白くて
埋もれそうにふわふわの布団。
掛け布団をはいで、俺から、座る。
鍵をかけたまま振り向き、
こっちを見てる綾に声をかけた。
『こっち、来いよ。』