第3章 ~痛い、恋 ~ (烏養 繋心)
『…君、ケイ君ってば!』
柄にもなく真面目なことを考えていたから、
呼ばれてることに気づかなかった。
『ぁ?ぁぁ、ん?』
『お肉。そろそろ裏返していい頃じゃない?』
見ると、小さな陶板の下に
贅沢な脂がたっぷり出ていて、
確かにもう、レアを通り越しそうだ。
『何、考えてたの?』
『ん?言えねぇなぁ。』
…言えねぇよ。
俺じゃない誰かとお前の未来、なんて。
『あやしいっ。
きっとまた、Hなこと考えてたんでしょ?』
それで、いい。
綾の記憶に残る俺は、
ちょっと枯れてて
ちょっとエロくて
ちょっと優柔不断で
ちょっと年の離れた男、でいい。
…出来れば、
"忘れられない昔の恋"の相手として
心のすみっこに残しててもらえたら、
何かの拍子に一生に一度くらい
思い出してもらえたら、
充分、嬉しい。
『…違うって。綾じゃあるまいし。』
『なに、それ?!』
『…んまそぅだなぁ。』
先に裏返した綾の肉が
ほどよく焼けていて、
『ほーんと、おいしそ!』
パクっと口にいれた綾が
とろけそうな顔で言う。
『やわらか~い!脂、甘っ!
これで白ご飯、無限に食べられそうっ!』
…甘い感情。
柔らかそうな肌。
そして、無限に食べたい、その身体。
ガタ、と、立ち上がる、俺。
『ん?なぁに?何か足りない?』
『俺も、肉、食いたい。』
『ケイ君のも、もうちょっとで焼けるよ。
それまで、私のお肉、一緒に食べる?』
『食う。お前の、肉。』
綾の後ろに、座る。
もう一度、浴衣の襟を大きく開き、
あらわれた胸を後ろから揉みしだく。
『…ちょ、お肉食べてよ、ほら…』
『俺は、こっちの肉が、いい。
綾は俺を気にしなくていいから、肉、食ってろ。』
『気にならないはず、ないでしょ…
いゃん、もう…ケイ、君、ぁん、
お肉、もったいない…食べようよ…』
『箸、貸せ。』
綾の手から、
肉を挟んだままの箸を奪い取る。
左手で胸を揉みながら、
右手で肉をぶらさげて、
綾の前へ。
『ぁん、遠い、もうちょっと…』
そんなことを言いながら
肉を追って口をあけ、上を向く姿は、
俺の"モノ"をおいかけて
くわえようとしてる時のようで、
…卑猥さが、たまらねぇ。