第3章 ~痛い、恋 ~ (烏養 繋心)
『ね、どこにあるの?』
ちょい、と袂をあげて見せる。
『返して。』
『目の前で、着替えてくれるなら。
今、ここで、浴衣脱いで全裸になって
俺の目の前で着てくれるなら。』
『…』
『あ、だけどなぁ、途中で、
仲居さん入ってくるかもなぁ。』
『…エッチ。意地悪。』
『そうだよ。俺は、そういう男。
がっかりしたか?嫌いになったか?』
『…好き。』
うぅ…この反応。素直すぎ。
意地悪してる自分がヒドい奴に思える。
でも、止めらんねぇ。
『意地悪してほしくて、
貸し切り露天風呂と部屋食の宿、
選んだんだろ?』
『…うん。』
えっ?そうなのか!
テキトーにきいたのに、
まさか、ホントにそうだったとは(笑)
これは、期待に応えてやんねぇと。
『返してやろうか?』
『うん!』
『じゃ、ココ、来い。』
…俺のとなりに座らせてグラスを渡す。
『今から俺に、一滴もこぼさねぇで
ビール、飲ませてくれたら返す。』
『それでいいの?』
『ただし、口移しで、な。』
『ええっ?』
『やる?やんねぇ?』
『…やる。返してほしいもん。』
『ただし、チャンスは一回だけ。』
『わかった。』
コクコク…
綾がビールを口に含む。
『少ねぇぞ、もうちっと。』
コクコクコク…さらに含む。
口いっぱいで、もう喋れない綾。
『一回だけ。で、こぼしたら終わり。』
ん、と頷いて、
彼女の顔が近づいてくる。
両手が俺の頬をはさんで、
口を開けさせられた。
トプ…
ぴったりとくっつけあった唇から唇に
ぬるい液体が、
慎重に、少しづつ。
それは、
"口移し"なんて他人行儀なもんじゃなく、
"濃厚なキス"以外の何ものでもない。
トプ、トプ、トプ…
もう少しで完了、という頃、
あいた手で、綾の胸を触った。
『…っ?!』
不意打ちに、ねじれる体。
その瞬間、タラリと俺のくちもとに
ビールの滴があふれていく。
『あーあ、もう少しだったのに、
こぼれちまったな。残念、残念!』
『今のは、反則でしょ!』
『ルールにはないから反則じゃねぇ。』
『ズルい!』
『ズルくない。』
『ずーるーいーっ!』
バンバン、と俺の胸を叩く綾。
…怒ってるらしいけど、
俺にしてみたら"じゃれてくる"子犬。
その時。