第3章 ~痛い、恋 ~ (烏養 繋心)
白い湯煙の向こう側、
白いタオルで
白い体を隠した綾は、
俺と目が合うとニコッと笑い、
そのまま振り返って洗い場に座る。
タオルで隠された前とは違い、
後ろは、全裸だ。
上から下まで、全部、見える。
クルッと丸めて結んだ髪の下は
ホッソリとした首筋。
案外しっかりした肩。
背中の真ん中に縦にはしる背骨と
身体の両側のバランスのいい、
ウエストのくびれ。
…その少し上には、
胸の膨らみのはしっこがあふれて見える。
真っ直ぐ伸びる脚。
膝の裏側からふくらはぎにかけて
細いのにさらにひきしまり、
アキレス腱がくっきりと。
その身体をシャワーが濡らし、
白い泡があちこちにまとわりつき、
そしてそれが
上から下へ流れていく様子を、
じーっと見てた。
…これ、俺の、女。
ラブホの風呂なら、
何度か一緒に入ったことがある。
人工的な円い浴槽に
人工的なブクブクとした泡と
七色の光が水の色を変える風呂。
あそこで見るのとは別人だった。
エロとは違う。
色っぽい。
…クラクラするのは、
興奮か?湯あたりか?
騒ぐ鼓動を抑えたくて、
一旦、湯からあがった。
広々としたスペースに置いてあるベンチに
俺が腰掛けたのとほぼ同時に
綾が洗い場から立ち上がる。
『あれ?もうおしまい?』
『いや、ちょっとづつ、な。』
そう、無理しないでね、と言いながら
チャポン、と湯船に浸かる綾。
体が湯に消える直前、
はずしたタオルから、胸が、見えた。
ゴクリ。
下半身に血が集まるのを感じて
さりげなく、股間にタオルを置く。
そんな俺を知ってか知らずか、
綾は気持ち良さそうに
空を見上げていて。
…露天風呂のカップル=セックス前提、
と思っている俺って、
おかしいのか?がっついてるのか?
エロビ、見すぎの妄想オヤジなのか?
一回り以上、年下の彼女に
完全にペースを乱されているこの状況。
俺だって、
カッコよく、決めてぇんだけどなぁ…
どうするべきか?
強引に、いくか?
そうやって
自分一人であれこれ考えていたら、
のんびりした口調で、綾が言った。
『私ね、彼氏と二人だけで旅行って、
これが初めてなんだぁ。』
『ふーん。』
…なんか、
突っ込みどころのある言葉だな。
どこだ?どこが気になるんだ?