第3章 ~痛い、恋 ~ (烏養 繋心)
新幹線を降り、レンタカーで
綾のナビに沿って到着したのは
古い町並みの城下町だった。
ただ古いだけではない。
通りはオシャレに整備されていて
カップルはもちろん、
女性同士で連れだって歩く人も多い。
こんなことでもなければ
俺には縁がない場所だろう。
だからこそ、いい。
俺は、綾の楽しそうな顔を見られれば、
(そんで、あとでうまい酒が呑めれば)
それで充分だ。
綾がチラリと俺を見て言う。
『男の人向けじゃないけど…』
『いいさ。俺は荷物持ちで。
どこでも好きなとこ寄れよ。』
『ほんと?ありがと!』
飛び跳ねるように嬉しそうに
歩きだす綾についていく。
初めての旅だし、
ここなら知り合いがいない、という
解放感もあるだろう。
あっちの店を覗き、
こっちの店で立ち止まり…
今まで、我慢、いっぱいさせてきたから。
たくさん、楽しませてやりてぇし、
たくさん、笑顔を見させて欲しい。
そんなことを考えながら
後ろからついて歩いていたら、
綾が、振り返った。
…心配そうな、顔。
『大丈夫?退屈してない?
のど、渇いた?何か飲もうか?』
…マネージャーだなぁ(笑)
彼女、になりきっていいのに。
こういう時に
一緒にワイワイ出来ない俺だけど、
楽しんでるよ、という気持ちを伝えたくて。
『…ぇ、…ぐか?』
『ん?』
…大きい声で言わせんなよ。
『手ぇ、繋ぐか?』
綾の瞳が、大きく開く。
『いいの?』
『ぁあ。』
『ほんとに?!』
『ここなら、知り合い、いねぇだろ。』
言い出しておきながら、なんだか照れて、
顔を見るのが恥ずかしい…から、
よそを見ながら、ほぃ、と手を出した。
さっきまでウサギみたいだった綾が
カンガルーみたいな勢いで
俺のところに戻ってきて、
『わぁい!』
子供みたいに手を繋ぎ、
そのまま、腕まで絡めてきた。
『…ぉ、おい、くっつきすぎだ!』
『いいじゃん、知り合い、いないし。』
『そういう問題じゃなくて、暑いだろ!』
『そ?じゃ、かき氷、食べよ!』
『だから、そういう問題じゃ…』
引き摺られるように歩くけど、
本当は、俺も楽しくて。
…端から見たら、
ちゃんとカップルに見えてっか?
まさか親子にゃ見えねぇよな?!