第3章 ~痛い、恋 ~ (烏養 繋心)
『大丈夫。味方、いっぱいいるし。』
『味方?』
『友達とか、母とか。
友達と旅行行くことにする。
母には本当のこと言っても大丈夫。』
『そんな簡単なもんか?』
『うん。
友達は、ほら、お互い様だから。
それに、母は彼氏いるの知ってるし。
年上でバレーしてる、って言ってある。』
…そりゃまたザックリした説明だ(笑)
『じゃ、お前の方は問題ナシなんだな。』
『うん…』
いつも門限ありだし。
いつも仲間にバレないようにしてるし。
行きたいだろうな。
彼氏と旅行なんて、
この年頃の女の子なら
誰でもそう思うだろうなぁ。
『…遠くは無理だぞ、ハワイとか。』
『…?!』
諦めを頑張って隠してる彼女の表情が
一瞬、素に戻る。
聞き間違えた?とでも思ってるような
疑い混じりの表情。
『1泊とか2泊とかでもいいか?』
ふわぁっ、と、
彼女の顔全体に、赤みと光が挿す。
『いいの?!』
こんな嬉しそうな顔をされて、
"ダメ"なんて言えねぇよ。
『いいよ、行こうや。』
『ほんと?無理してない?』
『無理してでも、俺も、行きたい。
たまにはのんびり堂々と、
恋人同士らしいのもいいだろ。』
『うん!嬉しい!嬉しいっ!』
飛び上がりそうな喜び具合。
…かわいいなぁ、と思ってしまう。
結局、俺も綾に惚れてるんだよな。
『俺にはボーナスはないけど、
小遣いの自動販売機(笑)があるから。
そしてたまたま今日は、ほれ。』
財布から、一万円札を5枚、取り出した。
『…もしかして?』
『昨日、パチスロで、な。
これ全部預けるから、この予算で
旅行中の経費、全部任せていいか?』
『…こんだけで、いい。』
綾は、一万円札を二枚、
俺に返して言った。
『仕事休む分、稼ぎが減るんじゃない?
これは今月のケイ君の収入にして。』
『いいって。カッコつけさせろ。』
…無理しないで、無理じゃねぇ、
見栄張らないで、見栄じゃねぇ、
そんな押し問答を何度か繰り返した後、
『じゃあさ、私も五万、準備する。
旅行が終わって残金があったら、
それを半分ずつにしようよ。』
という彼女の提案に話はおちつき、
『プラン、私に任せてもらっていい?』
『あぁ、もちろん。ありがてぇ。』
…そんなわけで
初めて二人で旅行に行くことになった。