第3章 ~痛い、恋 ~ (烏養 繋心)
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『…しん、ねぇ、繋心、』
『…ぁ?ん?』
『この辺りに座ろうか?』
隣で話してるのは、ヨメ。
…そうだった。
俺は今、
結婚して初めての花火大会に
ヨメさんと二人で来ていて、
そこで前の彼女を見かけたんだった。
昔の恋を思い出してボンヤリ、なんて
今の相手に失礼だよな。
『そうだな、座るか。』
青い草の香り。
俺が一歩先に土手に足を踏み入れ、
『ほれ。』
浴衣に下駄姿のヨメさんが滑らないように、
手を差し出す。
一瞬、
恥ずかしそうな表情をしたヨメさん。
『こんなところで転んだら
大事故だぞ。照れてる場合じゃねぇ。
…俺より年くってんだからな(笑)』
『…うるさいなぁ(笑)』
そう文句を言いながら、
それでも今度は素直に手を握ってくる。
こんな人がたくさんいる中で
自分から手を差し出すなんて
(ラブラブで…というより、
転倒防止というのが若者とは違うケド。)
俺も変わったもんだ(苦笑)
二人にちょうどいいスペースを見つけると、
ヨメさんは、
手元のカゴみたいなバッグから
くるくる巻いた布を取りだした。
『はい、そっちもって。』
布のはしっこを持って広げると、
二人用のシートだった。
ガサガサいうビニールのヤツじゃない。
表面の布地がさらっとして気持ちいい、
チェック柄の"女子"的なヤツ。
『へぇ、準備がいいな!』
『エヘヘ。これだけじゃないよ!』
さらに、
かごバッグから何かを取り出して。
『はい。』
透明の、プラスチックのコップ。
そして、水筒。
カラカラ、と
冷たい氷の音を響かせながら
コップに注がれた透明の液体は…
『水なんか…』
『私がわざわざ
水、冷やして持ってくると思う?』
イタズラっぽい表情の彼女は
目線で"飲んでみて"と促している。
コップをペコペコさせながら
顔に近づけると、
『ん?!でかした!』
それは、水ではなく、よく冷えた焼酎。
『濃いめの水割りにして、
氷、いっぱい入れて冷やしてきた。
はい、オツマミもあるよ。』
取り出された密閉容器に、
何種類かの乾きもの。
『バッグ、重たかっただろ?
早く言えば、俺が持ったのに。』
『大した重さじゃないよ。
それに、サプライズにして、
ビックリさせたかったから。』