第1章 ~二番目の、恋~ (及川 徹)
あぁ、そうだ。
…俺も木兎も、いつも、
ファンやミーハーちゃんに囲まれてたから、
少し感覚がおかしい、ってことを、
今、自覚した(笑)
確かに、木兎の誘い方は、普通じゃない。
出会って10分で"つきあおう"
…なんて言われて喜ぶのは
それこそ、俺達を"狙ってる"女の子だけで
普通の人は、
疑うだろうし、断るだろうな。
『つまり、木兎をキライで
断ったわけじゃない、ってこと?』
『キライ?』
メガネのブリッジを中指で押し上げて。
『木兎君をキライになる要素、
まだ、ひとつもないよ?』
『…急に誘われたりとかさ…』
『あぁ、』
その時のことを思い出すように
彼女は、笑った。
ふわり、と。
『すごいな、と思った。
人との垣根がなくて…
きっと人気者なのね。
強引に話しかけられても
不思議とイヤな気持ちにはならなくて。
あんな人、私のまわりにはいないなぁ。
気持ちをパッと明るくさせる人。』
…その通り、だ。
『じゃ、なんで木兎の誘い、断った?』
『だから、社交辞令ってわかるから、だってば。
多分、会う人みんなに言ってるはず。
もし私が本気にしちゃって断らなかったら、
きっと却って木兎君が困るでしょ?』
そんなことないと思うけど。
でもさすがにここで
"お医者さんごっこがしたいらしい"
なんて、言えるわけない…
『じゃ、忙しいってのは、』
『あ、それもホントではあるけど。』
『とにかくさ、』
本来の目的を思い出す。
『時間あるなら、絶対来て。』
『バレー、あんまりわからないけど。』
『いい、いい。
木兎見てれば、きっと楽しいはず。』
絶好調の時の木兎は、
コートの中で見てても気持ちいい。
『及川君と木兎君は、いい友達なんだ。』
『はぁ…』
あいまいに、笑い返す。
いい友達、と
いい相棒、は
一緒なのだろうか?
『とにかく、絶対、来てください。
じゃ。お忙しいとこ、失礼しました。』
…久しぶりに、女に頭を下げる。
普通なら、女の子との別れ際は、
片手をあげてウィンクだ…
とりあえず、
木兎との約束を果たせてひと安心。
…木兎のことを
少し羨ましいと思った。
顔なら、負けない。
プレーだって、負けない。
でも、
出会ってすぐの人を惹き付ける
あのオーラは…
あれは、俺には、ない。
あれこそ、天賦の才能だ。