第3章 ~痛い、恋 ~ (烏養 繋心)
ガタガタ、と玄関を上がると
奥から親父の声がした。
『母さんか?』
『いや、俺。』
『なんだ、お前か。』
…なんだ、って、なんだよ(苦笑)
『母ちゃんなら、門の前にいたぞ。
放っておいたら、まだ当分、
井戸端会議だろうけどな。
…なんか用なら呼んでこようか?』
『いや、別に。』
一人で晩酌してる親父の前に
俺の好物の揚げ春巻と枝豆がある。
『あ!それ、俺にも残しといてくれよ。』
『なんだ、晩飯食ってないのか?』
…そうなんだ。花火見てそのまま、
ええと、その、なんだ、
ラブシーンになだれ込んでしまったから
飯、食ってなくて。
今、考えると森島に悪いことした。
『あぁ、まだ。腹、減った。』
『遊び歩くのはいいけど、
お前、飯、いるかいらないかくらい
連絡してもいいんじゃないか?
飯、作ってくれる母さんのことも
ちっとは考えて…』
カッチーン。
『もうガキじゃねーんだから、
んなこと、いちいち言ってられっか!
あぁ、めんどくさ。それ、もらってく。』
空いた皿に適当に食い物をのせて
二階の自分の部屋へ避難。
風呂に入って、
今日のあれこれを思い出しながら
ようやく部屋で一人、晩酌を始めたら、
一階から母ちゃんの声がした。
『ちょっと繋心、なにすりゃ、
こんなクシャクシャになるんだい?
しかもまぁ、変な汚し方して!
汗かいたまま、バッグの下に
入れっぱなしとか、やめとくれよ!
もう、子供じゃないんだからねっ!』
あの、シャツ?!
…あわてて下に下りていき、
母ちゃんの手からシャツをひったくった。
まさか、
ホントの事情は悟られてねぇだろうけど、
んなもの、母親の手に握られてると、
俺が勝手に、死ぬほど恥ずかしい…
『じ、自分で洗うからっ!!』
シャツを手に、
ドスドスと階段を上がる。
あぁっ、めんどくせぇっ!!
自分ちにいるメリットなんて、
金がかかんねぇことと
家事、してもらうことだろ?
俺だって店番してっしさ、
何かあった時に、長男の俺が
すぐそばにいるってだけでも
親孝行な息子じゃねぇか?!
もう、
せっかくの花火デートに初セックス、
森島との感じのいい始まりに
両親してケチつけてくんじゃねぇ!
いい加減、
子離れしてくんねーかなっ!