第3章 ~痛い、恋 ~ (烏養 繋心)
綾を、
…んー、なんかまだ全然、慣れねぇ…
森島を降ろしてから、
俺も真っ直ぐ、家に向かった。
森島は今日も
連絡なく帰りが遅くなったことを
親父さんともめるのだろうか?
もう、学生じゃねぇんだから
少々、帰りが遅くなったって
わざわざ説教しなくてもいいじゃねーか、
…と俺は思うけど。
俺なんか、
もうちっと心配してほしいくらい
心配されたこと、ねえからな。
そんなことを考えながら運転していると、
うちの前に、何人かの人影が。
いや、怪しい人影じゃねぇ。
遠目でもわかる。
母ちゃんと、近所のおばちゃん達。
よく、
『婦人部の話しあい』という名目で
近所の居酒屋"おすわり"に集まっては
日頃のストレスを解消しているから、
今日もきっと、その帰り道だろう。
車を停めて降りると、
おばちゃん達に声をかけられた。
『繋心ちゃん、お帰り。』
『おう、おばちゃん達は"おすわり"の帰りか?』
『そう。繋心ちゃんは?
あ、もしや花火デートの帰りかい?』
そうだよ、と言おうとしたら、
カカカカカ、という笑い声の後に
母ちゃんの辛辣な声。
『あんな格好でデートのわけないだろ!』
はっ。
…シャツ、着ててよかった。
さっきの森島の言葉が頭の中に響く。
"ご近所の目が一番、怖いんだって!"
裸のままだったらきっと
母ちゃんに"この恥さらし!"って
一週間は、嫌み、言われてただろう。
改めて、森島の気遣いに感心する。
『こんなのでもいいって嫁にきてくれる人、
どっか、いないかねぇ?』
『あたしはどうだい?
亭主と死に別れてもう15年、
若い男と第二の人生でもうひと花咲かせたい❤』
アハハハハ、と笑い声が響く。
『うちに嫁にくる?あんた、いくつ?』
『68。』
『あたしより歳上の嫁かい!』
…勝手に盛り上がってら。
『母ちゃん、俺、先、あがるから。
なんか、食うもんあるか?』
『なーに言ってんだよ、
いつ帰ってくるかわかんない
不良息子の夕食なんて、もう
きっと父ちゃんがツマミに食べただろ。』
『えーっ?!ひっでぇなぁ!』
『甘えんじゃないよ!
残しといてほしかったら
ちゃんと電話くらい、しな!』
へいへい、すまんこって。
そうやって口先だけで謝って
そそくさと家にあがった。