第3章 ~痛い、恋 ~ (烏養 繋心)
すぐにまた走って出てきた彼女が
俺に手渡したのは、
白いアンダーシャツだった。
『Tシャツ、なかったぁ。
でもこれでも、まあ、
バスタオルよりマシだよね。』
『…もう、帰るだけだからいいのに。』
『ご近所の目が一番、怖いんだって!
坂ノ下商店のお兄ちゃん、夜中に裸で
出回ってた、なーんて噂、たったら、』
『…それ、やだな。』
『学校関係の仕事って、信頼が大事だから。
烏野に、烏養さんは欠かせない人でしょ。』
なんだろな、この感じ。
こういう真っ直ぐな嬉しい言葉って
ちょっと久しぶりに言われた気がする。
だけど、慣れなさすぎて、
素直にあんがと、とかって言えねぇ俺。
『…いくらだった?』
『え?いくら、って、お金?
やだ、そんなのいらないよー。
…ほら、早く着替えて、着替えて!
もうこの辺だと、
どこで知り合いに見られてるか
わかんないから!』
ペリペリペリ…と袋を開けて
シャツを広げて待ってる彼女に促され、
俺も言われるまま、
バスタオルのよだれかけ(笑)をはずす。
首と両腕を通して、
2秒で、着替え、完了。
『うん、似合う!」
『おいおい、これが似合わねぇヤツ、
逆にあんまりいないだろ(笑)』
『そうかな?なんか、特別、似合うよ!
…私からの初めてのプレゼントだもん、
ますます似合って見える~。』
『(笑)なら、大事にしねーとな。』
こんな(言葉は悪いけど)ちっちゃなことで
こんなに楽しそうな顔をされると、
それこそ、こっちまで嬉しくなってしまう。
…あれ?
これって、恋愛の始まり、なのか?
これってもう、
つきあってるってことなのか?
だけど、
それを改めて口にして確認する勇気は
今のところ、俺にはなく。
…きっとそのうち、わかるだろ…
『よし、帰るぞ。』
『遠回りしてもいいけど?』
『だぁめだ!だいたいお前、
今日、帰りが遅くなること、
ちゃんと家に連絡したのか?』
『あ!してない~!
…だってゴミ袋届けて
ちょっと手伝うだけの予定だったもん!』
『そりゃ、また親父さん、
怒ってるんじゃねーか?』
『知らな~い。スルーしちゃう!』
もう、
よそからの目線を気にすることなく
会話もちゃんと受け答えしながら
堂々と(笑)車を運転し、
彼女の指示した通りの場所まで
送り届けた。
…静かな団地の、空き地の角。