第3章 ~痛い、恋 ~ (烏養 繋心)
トランクにはいつも、
畑仕事の手伝いやバレーをしてて
予想以上に汗をかいたりした時用に
一組分、予備の着替えとかタオルとかを
バッグに入れて積んである。
まさか"こんな時"にまで
使うとは思ってなかったけどな…
そう思いながら、バッグをあけ、
暗がりのなか、ゴソゴソと探る。
…あった。あ、違う、これ、短パンか。
ゴソゴソ。
…これ、タオルだな。
あれ、バスタオルまで入れてたのか。
これを敷けばよかったな…
ゴソゴソ。
…あ、これこれ、
ん?
これも短パン?!
ゴソゴソ…
あれ?ゴソゴソじゃなく、
からっぽ。
えーーーっ?!
短パン2枚とタオル2枚?!
いらねぇもんばっかり入ってて、
なんでよりによって、
シャツ、1枚もねぇんだよっ?!
トランクをあけてバタバタしてる俺を
心配したのか、不安に思ったのか、
森島も車を降りてきた。
『どうしたの?』
『いや、着替えが…』
そこらへんに散らかしてあるものを
彼女が1枚づつ手にして確認する。
『…短パン、タオル、バスタオル、短パン…
あ、これは?』
バスタオルに挟まったアロハ柄の布。
『シャツじゃない?』
『あったか?!』
広げた彼女の手には
『や、やめろ、違う!』
ハワイ土産でもらった、
ド派手なトランクス。
しかも後ろに"I LOVE SEX♥"と
いらないプリントまでしてある!
『お、俺の趣味じゃねーぞ、
これは土産でもらってだな、家では
こんなの履かねーから、予備でここに…』
ケラケラケラ、と笑う彼女。
『だよね、さすがにこれは
親にも見せたくないし、
外にも干せないと思うもん(笑)
…で、これで全部?シャツは?』
『…ねぇな。』
『じゃ、これでさ、こうやって、』
彼女は、
手にしたバスタオルを俺に羽織らせ、
首の前ではしっこを結ぶ。
…ヒーローごっこする子供のようだ。
『何もないより、ね。』
『バカ、かえって恥ずかしいじゃねーか!
いいよ、どーせ暗いから、このままで。
ほら、帰るぞ、乗れ!』
バスタオルのマントをピラリとはずし
運転席に乗る俺。
あわてて拾ったバスタオルを手にし、
急いで助手席に乗る森島。
ついさっき二人きりで花火を見て
男女の仲になったというのに…
ちっともロマンチックな雰囲気ではなく
車をスタートさせた。