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~愛ではなく、恋~【ハイキュー‼】

第3章 ~痛い、恋 ~ (烏養 繋心)



夜の体育館の前で向かい合う、
俺たちを包む、暗闇と静寂。

…いや、違う。

暗闇、じゃねぇ。
学校の玄関を照らす防犯灯の、
小さなオレンジ色の光りが
うっすらここまでこぼれてる。

静寂、じゃねぇ。
離れた草むらから、夏の虫の声。
遠くで空に響いてる、花火の音も。

…見えないふり、
聞こえないふりを止めれば、
本当は
いろんなものがあって当たり前なのが
世の中、ってもんだ。

見ないように、
聞こえないように切っていた、
自分の心のスイッチを、入れる。

好きかどうかはわかんねぇ。
でも、
嫌いじゃねぇんだ、確かに。

歳の差も、
キャラの違いも、
向こうが気にならないなら
俺からブロックする必要、ねぇだろ?

ずっと黙ったまま、
ずっとこっちを見てる彼女。
先に目をそらしたのは、俺。

俺自身が見ないふりをしていた
"彼女が気になる"という
感情のスイッチを、入れる覚悟をして

ポケットの中、車の鍵を握りしめた。
二つ並ぶ小さなボタンの1つを押す。

カチ。

ランプが2回、点灯したのは
ドアロックが開いたことを知らせるサイン。

そして、
俺のなかで、
"ススム"ことを選択したサインでもあり。

『…乗れよ。』

『え?』

『見たいんだろ、花火。』

『うん。』

『俺とで、いいんだろ?』

『烏養さんと二人で、見たい。』

『じゃ、』

遠くの空から、
ドーン、パラパラパラ…と
ひっきりなしに音が響いてくる。

この音がしているうちに。
この音に後押ししてもらえるうちに。
今より少し、何かを変えなくては。

『…急ぐぞ。』

ドアを開けてやったりは、しない。
行きたいなら、自分でついてこい。

自分の意思で、来い。

俺は運転席にさっさと乗る。
慌てたように、彼女もドアを開け、
ためらうことなく助手席に。

バタン、と閉まったドアの音が
二人だけの時間の始まりを告げる。

『先に言っとくけど、』

エンジンをかけ、
アクセルを踏み、
空間ごと、前へ。

行く先を決めるのは、
俺が握るハンドルが全て。

『花火大会の会場には、行かねぇから。』

もし『え?どこ行くの?』って言われたら
デートはこの日限りだったかもしれない。

でも彼女は、
そんな野暮な返事はしなかった。

『どこでもいい。連れてってくれるなら。』

俺に全てを預ける言葉。

…上等だ。
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