第3章 ~痛い、恋 ~ (烏養 繋心)
ゲ、ケホッ…ゴホ、ゴホッ、コンコン…
『おらー、やめとけつったのに!』
『…こんな苦いの、吸うんだ。』
『ほっとけ!』
『烏養さん、いつも自由だね。』
…俺、自由なのか?
考えたこともねえけど。
気楽な実家暮らしに
気楽な実家の手伝い。
時間も金も、全部、
自分のために使ってるってことは、
自由、なのかもな。
『わりぃか?』
『うぅん、楽しそうで、いい。
楽しそうなところが、いい。
私の周りの大人とは、違う。』
『違わねぇだろ。こう見えて俺もいろいろ、』
大変なんだ、と言おうと思ったけど
何が大変か、思い浮かばなくて。
…そっか、俺、悩み、ねぇな(笑)
『いろいろ、大変?』
『いや、まぁ、そうでもねぇか。』
『もし私が今、
烏養さんの悩みの種になりたい、
って言ったら、困る?』
『悩みの種?』
『…例えばほら、私、今、酔ってるでしょ。
酔いに任せてこんなことしたら、』
飛び付くように肩に手をかけてきて、
俺が体勢を崩したのをいいことに、
『…んっ?!』
森島が、唇をあわせてきた。
…いわゆる、キス、だ。
一瞬のことだった。
本当に、事故みたいなキス。
それでも、
髪から漂う花のような香りと
ぷく、っと柔かな唇の感覚は
ハッキリと伝わってきて、
パチ、と、
自分の中で小さな音がした気がする。
…挑発に乗らないのが、大人?
それとも、挑発し返すのが、大人?
『なんだ?今の。あれでキスしたつもりか?』
暗闇の中でもよく見える、
彼女の大きな瞳。
『キス、ってのはなぁ、』
あいにく、俺は、紳士じゃねぇ。
失って困るような地位もねぇし。
誘われて拒む、理由がねぇ。
ガッ、と、華奢な肩を掴む。
…抱き締める、みたいな
優しい仕草じゃなくて、
掴んで、引き寄せて、
吸い付くように、むさぼるように、
彼女の唇に、くらいついた。
『…っ…』
彼女の口から俺の口に、
小さなうめきが届く。
開いた隙間に舌を差し込んだ。
ザラリ。
彼女の柔らかな舌を、
俺の分厚い舌でなめ回す。
…背中に彼女の両手がしがみついてくる。
背伸びして、離れないように、ギュッと。
かわいい、と思った。
さっきまでの、妹、とか
親戚、みたいな感覚じゃない。
"若い女"のみずみずしさに、
俺の心、
確かに、
濡れた。