第3章 ~痛い、恋 ~ (烏養 繋心)
二時間ほど、そこにいただろうか。
ほどよく酔った彼女は
オッサンとも先輩とも仲良くなっていた。
『おい、帰るぞ!』
『えーっ?!』
『えー、じゃねぇ。
まーた親父さんと揉めたら面倒だろ?!』
『それでもいい!』
『ダメだ!そのうちまた連れてくっから!』
…シラフで見ると、酔っ払いって
なかなか面倒なもんだな(苦笑)…
そうやって無理矢理連れ出し、
車を走らせる。
『寝てていいから。』
『襲う?』
『バカいえっ!
俺は、女、酔わせて襲うような
卑怯な真似、しねー!』
『…襲っていいのに…』
『そういう冗談、やめとけ。
若くて盛ってるヤツにそんなこと言ったら、
襲われたって言い訳出来ねぇぞ。』
『…だって、今日、すごく楽しかった。
父には言えないことばっかりだけど、
すごく、楽しかったんだもん。
烏養さんのそばにいたら、また何か、
私の知らないこと、教えてくれそう。』
…別に、特別なことは何もしてない。
パチスロ、ちょっと体験させて、
ちょっとマニアックな店で飲んだだけ。
それなのに、
こんなに熱い眼差しで見られたら。
『一緒にいて楽しかったのは、
私だけだったなら、ごめんなさい。』
そんなことは、ない。断じて。
"一緒にいて楽しい"なんて言葉、
今まで、言われたこと、あったか?
感じたことない嬉しさが
ジワジワと胸に広がるのを
押さえつけるのに、苦労する。
落ち着け、俺。
調子にのる場面じゃねーぞ。
話の流れを変えたくて、言った。
『…ちょ、タバコいいか?』
『え?あぁ、うん、もちろん。』
いくら自分の車でも、
隣に女をのせたその横で吸うほど
デリカシーのない男では、ない。
少し広い駐車スペースを見つけ、
車から降りてタバコに火をつけた。
エンジン、
かけっぱなしにしといてやったのに、
彼女もすぐに降りてくる。
『ね、』
『あ?』
『もひとつ、初体験させて!』
『…なんだ?』
『たばこ。』
は?
『やーめとけって!』
『お願い。一口だけ!』
…タバコも一口、って言うんだろうか。
ふと考えこんだそのスキに、
俺の手ごと掴んだ彼女が、
吸いかけのタバコに口をつける。
白い吸い口をくわえる、赤い唇。
ゴクリ。
思わず…ツバを飲み込んでしまった。
なんか、よくわかんねーけど、
ヤらしくて。