第3章 ~痛い、恋 ~ (烏養 繋心)
『お魚ちゃん、何、飲むか?』
『ビール!』
『はいよ。烏養も?』
『いや、車だから…何飲めばいいんだ?』
ここに来るときはいつも
先輩の家に泊めてもらってたから
飲まないことがなかった。
でも、
今日はそういうわけにもいかないし。
『ノンアルビールもあるけど…
いいじゃん、二人とも泊まってけよ。』
『無理無理。…ノンアルにすっかな。』
『じゃ、あたしもノンアル!』
『烏養はノンアルな。お魚ちゃんは、ビール。』
『いえ、あたしもノンアル…』
『だーめ。初めて来たんだから、
うちの雰囲気も料理も
ちゃんと味わってもらねぇと。
それには酒は欠かせないんだよ~。』
『…でも、』
申し訳なさそうにこっちを見る森島。
『いいよ、連れてきたの、俺だし、
責任もって、今日のうちにちゃんと送るから。
気ぃ使わねぇで、俺の分まで飲みな。』
…そんなわけで、
俺は、ほぼ初めてといってもいいほど
シラフでこういう場を過ごすことになった。
一方、森島は、というと
でっけーエビフライにかぶりつき、
煙をものともせず魚や貝を焼きながら
わいわいとオッサン達としゃべり、
それはそれは楽しそうにしていた。
…俺の存在を忘れてそうなくらい(笑)
途中で、手の空いた先輩が
飲みながら俺のとなりにやってくる。
『どうよ、飲まない夜は。』
『新鮮。酔っ払いってこんな風に見えんのかー。』
『ホントに彼女じゃねーんだ。』
『まだ、違う。』
『まだ?』
『今んとこは。』
『…若いよなぁ。10くらい下?』
『もちょっと。』
『へぇ!
あんま、お前の回りにいないタイプだろ?』
『あぁ。ちゃーんとした家の
大事に育てられた娘さん、って感じ。』
『いーじゃん、ちょっとだけさ。』
『ちょっと、ってどーいう意味で?』
『お前、結婚する気、ないんだろ?
だからさ、ちょっとだけ。
向こうの目が覚めるまで。』
『目が覚めるまで、って(笑)』
『彼女にとっちゃ、若気のいたりだろ。
そういう経験、
人生に一回くらいあっていいじゃん。』
『ひっでぇなぁ!』
せーんぱーいっ、おかわりだってー!
…オッサンのコップを持ち上げた彼女。
『はーいよっ!』
返事をした先輩は、
『ま、楽しめ。』
無責任に?!俺の背中をポンと叩いて
戻っていった。