第3章 ~痛い、恋 ~ (烏養 繋心)
『…で、ここ何屋さん?』
『んー…見た通り、海鮮屋?というか…』
昔からの遊び仲間である先輩の、店?
そいつの親父が趣味程度に漁をしてて
その日の釣果なんかを、
息子である先輩がさばいて食わせる。
メニューは簡単なもんばっかり。
刺身か、揚げるか、焼くか、
あとは、そこらへんに
七輪がゴロゴロ置いてあって、
客が勝手に炙って食う。
だけどとにかく新鮮だし、
シンプルだから旨さは際立つし、
何より、かしこまらずに、
旬のものを安くで食える。
…必然的に、店内には
酒飲みのオッサンばっかり。
森島のリクエスト
"女子同士だったら行かないような店"
の、究極のスタイル。
…というか、今さらだけどこの煙、
さすがに女子向きでなさすぎる?!
チラッと彼女を見ると、
さっきのパチスロ屋に入った時みたいに
物珍しそうにキョロキョロしてる。
『…あんまり、か?』
『す、ご、い!!』
あ、悪くはない反応。よかった。
『とりあえず、座っか。』
席、というほどでもない(笑)
木の箱みたいなのに板を渡した
簡易のテーブルに、丸太の椅子。
花柄のノースリーブシャツに
レモンイエローの薄くて長い
カーディガンをはおり、
ピッタリしたデニムのパンツ姿。
耳元には小さなピアスも光ってて、
ひとまとめにした髪もツヤツヤ。
そんな森島が、
あまりにもこの場に似合わなくて。
ちょっと笑って、少し反省した。
…なんか、さすがにあんまりだったか?
でも、当の本人は
そんなことチラッとも思ってない顔で
ワクワクキョロキョロしてる。
…のと同じくらい、
周囲のヤツラに、彼女も見られてる。
そりゃ、そうだ。
まさに"掃き溜めに鶴"って感じ(笑)
『よ、烏養~。』
ここの板長?である先輩が
魚をさばきながら声をかけてきた。
『久しぶりに来たと思ったら、
なんだよ、彼女自慢か?』
『いや、そんなんじゃねぇけど。』
『じゃあ何だよ?若いなぁ、ピチピチ!』
森島が笑って答える。
『ピチピチ(笑)魚みたい(笑)』
『(笑)お魚ちゃん、烏養に釣られた?』
『逆、逆!私が烏養さんを釣ったの。
晩御飯食べに行こう、って。』
『マジかー!でも気を付けねーと
最後は烏に食われるぞ。
烏は新鮮なお魚ちゃんが大好物(笑)』
…コ、コラ、やめろ~!